新刊書紹介
新刊書紹介
ITビジネスの契約実務〔第2版〕
編著 | 伊藤 雅浩,久礼 美紀子,高瀬 亜富 著 |
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出版元 | 株式会社商事法務,A5判,296p |
発行年月日・価格 | 2021年10月発行 3,520円(税込) |
第2章では開発期間や成果物の内容,対価をめぐって大規模な法的トラブルに発展するおそれがあるソフトウェア開発委託契約を取り上げている。この点,筆者はトラブルの未然防止のため,工程ごとに契約を分割して締結することを提案している。また,この種の契約でポイントとなる請負と準委任契約の区別についても詳細に論じている。第4章では「システム保守委託契約」を取り扱っている。一見地味な契約ではあるが,昨今の大手金融機関によるシステム障害に代表されるように重大なリスクをはらみ,また,その性質上長期間にわたって継続するため,開発委託契約と双璧をなす重要な契約であるとしている。同契約に関する解説書自体多くないが,本書では不具合の修補を求める場合の保守契約と開発委託契約に基づく契約不適合責任の関係,つまり双方の契約期間あるいは契約不適合責任に基づく請求が可能な期間に不具合の修補を求める場合,いずれが優先されるのか,といった実務上の興味深い論点も掘り下げている。
特筆すべきは第6章の「販売店契約・代理店契約」である。メーカーなど,工業製品を取り扱う業者同士での当該契約の解説は数多く存在するが,本書ではソフトウェアやクラウドサービスなど,ITビジネス固有の商材を取り扱うことに特化して論じている。実際,これらの商材も通常の工業製品と同様に,販売や営業活動を委託しているケースが少なくない一方で,無体物であるIT商材特有の事情を踏まえた解説は希少であり,その点でも本書の意義は大きい。特に,IT商材では有体物の取引で大きな争点となる在庫リスクや危険負担といった観念が困難であるため,通常の工業製品の取引における販売店と代理店のような区別の意義は乏しく,直接使用許諾型か再使用許諾型かで分類すべきとする提言は傾聴に値する。
以上の通り,本書はIT契約の特徴を把握する上で有用な書籍である。本誌の読者はメーカーの法務・知財部門に所属している方が多いかと思われるが,冒頭のように私と同じ悩みを抱えている担当者も少なくないのではないだろうか。そのような方には是非手元に置いて頂きたい。
(紹介者 会誌広報委員 K.I)