新刊書紹介

新刊書紹介

オープンイノベーションの知財・法務

編著 山本 飛翔 著
出版元 勁草書房 A5判 324p
発行年月日・価格 2021年9月発行 4,620円(税込)
 オープンイノベーションといえば,他社や大学などの研究機関との共同研究や共同開発が連想されてきたが,近年ではスタートアップとの共創へと発展し,さらに最近では,大手企業を中心にスタートアップへの投資に関心が高まってきている。研究機関との共同研究契約締結の相談を受けた知財部門や法務部門の担当者はどのような観点に着目して契約書のチェックや,研究開発部門に対してどのようなアドバイスをすれば良いのかという知見は既に持っているが,それがスタートアップとの契約,さらに,投資の案件になった場合には,知見がない知財部門や法務部門の担当者も多いのではないだろうか。
 本書は,スタートアップとのオープンイノベーションにおいて,NDA,PoC,共同開発等の各段階における留意点を,具体的な契約条項等を例示しながら,詳細に解説している内容となっている。また,本書の特色としては,単に契約条項等の解説のみならず,大手企業や大学側の視点,スタートアップ側の視点についても言及しており,契約書の検討段階において,相手側の論理・利害関係を理解した上で両者がWin-Winの関係で契約やアライアンスが組めることを念頭におきながらまとめられている点にある。
 さらに本書では,大手企業からスタートアップへの投資を伴う場合や,M&Aをする場合の知財・法務デュー・デリジェンスにおける留意点も詳しく解説いただいている。特に私自身,今まで投資契約を取り扱ったことがなかったが,本書を読むことで,投資の目的には財務的リターンか戦略的リターンがあること,また,スタートアップへの投資にはシード・アーリー・ミドル・レイターと言ったステージがあること,投資案件で締結する契約の各条項の内容とその留意点を理解することができた。特に,スタートアップとの投資を伴う契約においては,その企業との関係のみならず,創業者個人との関係にも留意する必要があることが本書を通じて初めて理解した。また,スタートアップと大学とのオープンイノベーションの留意点についても,大手企業とスタートアップとのオープンイノベーションとは別章で解説いただいており,大学の知財・法務担当者にも十分参考になる内容となっている。
 このように,本書は大手企業の知財・法務担当者のみならず,大学の知財・法務担当者にも十分有益な内容となっており,スタートアップとの契約の担当者には必読の参考書である。私も,スタートアップとの契約相談を受けた際には,本書を参照しながら業務を進めていきたいと考えている。

(紹介者 会誌広報委員 H.N)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.