新刊書紹介
新刊書紹介
詳解 特許翻訳
編著 | 倉増 一 著 |
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出版元 | 講談社 B5判 560p |
発行年月日・価格 | 2021年7月28日発行 6,985円(税込) |
各例題においては日本語の課題文とそれに対応する原訳が記載されており,先ず読者は,日本語が技術的に正しいのか,論理的に正しいのか,技術用語は正しいのか,動詞は適切か等,英文翻訳をするにあたって課題文の記載自体に問題があるのかを検討する。次に,上記問題点を解消した和文に直し,修正した和文に基づいて原訳の修正をし,解答(課題文及び原訳の修正文)と照らし合わせる学習を繰り返す。これにより,上記3本柱を意識した特許翻訳が可能になり,日頃の翻訳に活かすことができるような応用能力を身につけることができように工夫されている。
本書は全12章から構成され,章ごとに著者の設定した特許翻訳における重要な点を学習できるようになっている。それらは,技術の理解力を高めること,数値・数量の表現力を高めること,和文にはない主語を決めること(特に無生物主語),冗長な和文を簡潔な英文にすること,逆に舌足らずな和文を論理的な英文にすること,翻訳における用語の係り受けの間違いに注意すること等である。
また,言葉の森,技術の森と称するコラムが多数掲載されており,それぞれ英文の語彙や表現に関する内容及び技術に関する基本的な解説や,特許翻訳における様々なテクニックや好ましい英語表現が紹介されているので,全部の例題に取り組まなくても実務に役立つ知識や知見は得られる内容となっている。例えば,AにB(塗料)を塗布するという表現の翻訳として,applyとcoatという単語があるが,applyの目的語は塗料(B)であり,coatの目的語は塗装の対象物(A)であるという解説がコラムでなされている。このように,さまざまな技術用語の使い分けについて説明されているため基本的な翻訳ミスをしていたことに気づくこともあろう。
特許翻訳を直接の業務としている方でなくても,翻訳文をチェックする,或いは特許や技術について英語でコミュニケーションをする必要のある方であれば,特許(技術)翻訳のチェックポイントがよくわかる内容となっている。例題の数が多いため,課題文の検討,課題文の修正,原訳の修正を1問ずつ丁寧にこなすには相当な時間が掛かるが,特許翻訳の能力を向上させるには最適な一冊と言えよう。
(紹介者 会誌広報委員 T.K.)