新刊書紹介
新刊書紹介
標準化ビジネス戦略大全
編著 | 江藤 学 著 |
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出版元 | 日本経済新聞出版 A5判 448p |
発行年月日・価格 | 2021年7月21日発行 4,180円(税込) |
今日,自社製品の技術を全て独自で開発することは困難である。このため,他社で開発された技術を活用しつつ独自技術の普及を実現するオープンイノベーションに注目が集まっている。このため,独自の技術を生み出す知財生産活動と同時に他社の技術を入手し活用する知財利用戦略,自らの技術を他社に使わせる知財普及戦略が必須といえる。これらの知財利用,知財普及を実現する典型的な例が標準化活動であろう。標準化を通じてビジネスで成功した事例として,鉄道レールの軌道やAV機器がよく挙げられるが,この点,筆者は,標準化は人類の歴史と表裏一体の活動であるとしている。太閤検地はおろか,言語や文字,はたまたピラミッドに積み上げる石のサイズの統一も標準化の一種であるという筆者の視点は興味深かった。
本書では,戦前から戦後における日本の自転車業界の盛衰やQWERTYキーボードが普及する過程,市場規模が米食人口に比例する電気炊飯器など,過去に標準化活動を通じて発展,成功した業界や製品の事例が豊富に紹介されており,純粋に読み物としても面白い。第5章では「規格に特許を包含させる戦略」として,技術と特許の関係について詳述している。この点,筆者は標準化と特許を,それぞれ単純化する作業と技術を普及させるための制度と定義している。すなわち,目的が技術の普及なのか独占なのかという点で異なるものの,イノベーションを促進させるための両輪であるとしている。また,第8章では,標準化の効能として,技術開発の効率も上がることからイノベーションにも資することを実証的に説いている。更に,技術開発のどの段階で標準化を検討すべきか,各研究段階での事例を紹介しながら論じている。オープンクローズ戦略についての書籍は多数あるが,標準化のタイミングについてここまで深く検討している例は決して多くはないだろう。
かつて日本企業は欧米が統一したルールに従って技術的にキャッチアップし,より高品質な製品を市場に送り出すことで成長してきた。このフォロワーとしての成功体験が,標準化をリードしルール策定に関与することの重要性を置き去りにすることにもつながっている。本書では,標準化とビジネスの関係について分かりやすく書かれている。このような目を養う必要性を感じている実務家は,是非読んでみてはいかがであろうか。
(紹介者 会誌広報委員 K.I)