新刊書紹介

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国際技術ライセンス契約

編著 井原 宏 著
出版元 東信堂 A5判 320p
発行年月日・価格 2021年7月10日発行 3,520円(税込)
 国際技術ライセンス契約のうちの英文ライセンス契約について,ライセンサーとライセンシーそれぞれの立場から,作成のポイントや交渉術,主要国における競争法上の留意点などを解説している。国際技術ライセンスは国を跨いだ技術や対価のやり取りとなるため,必然的に国内企業間のライセンスと比べてより精緻な検討が必要となる。それだけに事業戦略としても極めて重要である。

 本書の特徴を3つ挙げる。1点目は英文ライセンス契約の構造について,実務でも使用可能な詳細な例文と対訳により解説がされていることである。とりわけ契約の中核をなすライセンス対象物や技術,権利の特定方法,対価の支払い方法や計算方法については,複数の条文例に加えて解説や対訳が丁寧・豊富に記載されている。一方で,英文契約特有の不可抗力条項や解除条項,期限喪失条項などの一般条項に関する解説が最小限にまとまっている。そのため,重要な箇所は手厚く解説されておりメリハリのある内容に仕上がっている。

 2点目は豊富な実務経験を積んでいる筆者ならではの視点から考察がされていることである。一例を紹介すると,独占的ライセンス契約では,ライセンサー許諾技術への投下資本を回収するために,ライセンシーに対しミニマムロイヤルティの支払い義務を課す例が多いが,このことがライセンシーに対しての損害賠償額の予定と解釈される記述を避けなくてはならない,すなわちライセンシーがミニマムロイヤルティさえ支払えば,自らの義務を履行したと解釈される場合があるとして,ライセンサーに注意を促している。また,ライセンス契約に付随するライセンサーからライセンシーへの技術支援については,プラント建設において想定される紛争を例に詳細に解説している。大手化学メーカーで法務部長を務めた著者の指摘は傾聴に値する。

 3点目はライセンス契約における重要論点,例えば最恵待遇条項の扱いや独占的ライセンス契約の際のライセンシーの許諾技術についての最善努力義務の有無などについて,米国における複数の判例を紹介していることである。このことは,関連判例を別途自身で調べる必要がなく,ユーザーフレンドリーな内容となっている。私自身,あまり気にかけていなかった論点も多いが,いずれも深く掘り下げられており参考になった。

 技術ライセンスは,経営資源たる知的財産の有効活用という面でも,またオープンイノベーションなど自社の事業戦略を有利に進めるためにも重要な手段の一つである。とりわけ,海外企業との技術ライセンスは特有の困難さがある一方で,グローバル化に伴い事業上の重要性も増している。その道標となる一冊として,是非本書をお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員  K.I)

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