新刊書紹介

新刊書紹介

米国特許プラクティカルガイド

編著 小西 恵 著
出版元 発明推進協会 A5判 312p
発行年月日・価格 2021年6月発行 3,300円(税込)
 本書は欧米特許に詳しい著者の手によるもので,2004年発行の「米国特許実務マニュアル」をベースに内容をリニューアルし,2013年の米国特許改正法(AIA)に対応したものとなっている。
 全体は8つの章から構成され,1章から順に,米国特許制度の概要,特許性要件Ⅰ,Ⅱ,各種特許出願,出願後の手続き,特許後の手続き,守秘特権,クレーム解釈,となっている。
 AIAで改正された内容に関しては,改正前の制度も簡単に解説してあり,「確かこの様な制度があったはず」にも対応できるものである。例えば,「ベストモード要件」は,記載要件として存在はするが,AIA改正で訴訟で抗弁することが禁止されたこと,また,かつてはベストモードの隠蔽行為が極端に不公正であると認定されると権利行使不可になっていたが,現在では発明者の主観でよい,等である。
 そんな中で個人的に目から鱗が落ちた印象だったのが,「文献の参照による引用」(IBR:Incorporation by Reference)である。過去に用語の意味は聞いたことがあったが,米国の出願・権利化に際し,特に意識することもなく対応してきた。他国では使えないが,大した手間でもなさそうであり,上手く使えば有用と感じたので,活用を検討してみようと思った。
 最終章の「クレーム解釈」では,通常のクレーム解釈における注意点の他,特に注意を要する,均等論とミーンズ・プラス・ファンクション・クレーム(MPFクレーム)の解釈について解説してある。文言の意味に関して,かつては法律事務所に大量の辞書が置いてあったと聞いたが,その見直しとなった経緯と共に用語の解釈方法が示してある。また技術の進歩により従来の用語でカバーしきれなくなった場合に造語を使用することがあるが,その解釈をした判決も紹介されている。MPFクレームの解釈は米国特有の考え方であるが,MPFクレームにも均等論が働き,どこまで拡張できるかの考え方は参考になるものである。
 本書は,必要になったときに該当箇所を読むという使い方をされる方が多いと思うが,とりあえず一読して,米国特許がどの様な点に注意する必要があるものなのかを理解しておくことも有効であろう。なお,注意事項に関して,その判断の根拠になった判決の番号も示してあり,深く勉強したい人にとっても役立つ内容である。初学者に限らず,広く活用できる書籍である。

(紹介者 会誌広報委員  M.I.)

新・商標法概説【第3版】

編著 小野 昌延・三山 峻司 著
出版元 青林書院 A5判 680p
発行年月日・価格 2021年7月発行 9,460円(税込)
 本書は,商標法実務の本格的な概説書として従来から定評があった『新・商標法概説〔第2版〕』の改訂版である。前著の発行以降,度重なる商標法の改正と審査基準の改訂があり,また,最高裁判所の判例や知的財産高等裁判所の裁判例も数多く出されたことから,最新情報を得たい私としては,改訂版の発刊がとても待ち遠しかった。なお,本書は,小野昌延先生と三山峻司先生の共著となっているが,主たる執筆者である小野先生がご逝去されたという事情があり,改訂作業は,三山先生を中心に進められたとのことである。
 本書は,大きく3編で構成されている。第1編「序論」では,商標の意義や商標法の沿革・発展等を扱っている。特に,2021年の改正商標法までの解説が丁寧に施され,改正前後で実務がどのように変化してきたのかを体系的に把握できたのがとても良かった。
 第2編「実体的商標法」では,主に商標権の効力や侵害に対する救済等を扱い,訴訟遂行を意識した内容になっている。私は,企業の知的財産部において模倣品対策業務に従事し,冒認商標を出願して模倣品製造販売を行う悪質な第三者への効果的な対抗手段を日々研究しているののだが,特に,第7章第4節「商標権侵害にす対する救済」では,各国当局を説得する際の材料・根拠になり得るのではないかと思えるような著者の個人見解がいくつか示されていたので,「なるほど,そのような考え方も出来るのか。」と,とても参考になった。また,真正商品の並行輸入についても,企業としては非常に悩ましい問題なのであるが,同編では,問題の所在から各種理論(学説),判例評釈から傾向分析,そして随伴しがちな「詰め替え問題」にまで丁寧に解説がなされており,大変勉強になった。当該箇所は,企業のセールス担当者やマーケティング担当者にとっても役立つと思う。
 第3編「手続的商標法」では,主に商標登録出願や審査,審判制度を扱っている。実務では,登録商標がその指定商品や役務について使用されていたといえるのか否かがよく問題となっているが,本書では,整理された肯定例と否定例が豊富に取り上げられており,この相当数の事例から実務の傾向を感覚的に掴むことができたので,私には,とても有難かった。
 本書は,2021年の改正商標法にもいち早く対応し,また,同年1月の下級審の裁判例(リシュ活事件)も取り上げている。よって,本書は,商標に携わる者にとって,必携の一冊といえよう。

(紹介者 会誌広報委員  M.I.)

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