新刊書紹介

新刊書紹介

中国の特許権侵害紛争における行政処理の利用マニュアル

編著 遠藤 誠 著
出版元 日本機械輸出組合 B5判 514p
発行年月日・価格 2021年4月20日発行 4,500円(税込)
 中国における特許(専利)権侵害紛争は,裁判所による侵害訴訟(司法ルート)と行政機関(地方政府の知的財産権局)による行政処理(行政ルート)がある。本書は,中国における特許権侵害紛争における行政ルートの手続きや留意点について解説するとともに関連する法令等の内容を紹介するものである。全514ページのうち,本文となる解説はおよそ100ページあり,残りが法令やガイドライン等の参考資料の紹介ページとなっている。
 解説は全10章よりなり,第1章では本書の目的と構成,第2章から第4章では行政処理の概要や特徴,基本的な手続き,第5章では調解(第三者である行政機関が紛争の当事者に対して説得及び忠告を行って当事者の合意を促す手続き),第6章では行政処理に対する不服審査申立及び行政訴訟,第7章では行政処理の具体的な事例,第8章から第10条にかけて当事者になった際の留意点や著者からの提言が紹介されている。
 参考資料としては,特許法,特許権侵害紛争行政裁決事件処理指南等の5つの法令等及び多数の手続書類の文書様式等の和訳が掲載されており,充実した内容である。特許法については2021年6月1日に施行された第4次改正法と旧法である第3次改正法の新旧対照の形での記載となっており,利便性に配慮されている。
 ここで,中国における特許権の侵害紛争における両ルートの大きな違いとして,手続きの期間と請求内容がある。手続きの期間については,行政ルートは申立から3か月以内に行政裁決(結論)を下すことになっているため,1審判決までに6か月以内の司法ルートよりも早く結論を得ることができ,権利者にとって有利である。一方,請求内容については,行政ルートでは侵害差止のみが可能で損害賠償を請求できない点は権利者に不利である。ただし,行政ルートでの行政処理の申立後に司法ルートでの侵害訴訟の提起は可能であるため,行政ルートで侵害行為の差止を請求しつつ,その審理を通じて損害額に関する証拠を入手し,その後司法ルートで損害賠償を請求するといった戦術を取ることができることの紹介もあり,中国における特許権侵害紛争の実務担当者にとって有益な情報が記載されている。
 従来,日本企業にとって行政ルートは,行政機関の専門性の欠如を理由に特許侵害紛争においてあまり積極的に利用されることはなかったが,行政処理の件数増加によって行政機関の専門性や信頼性は向上しているのが現状とのことである。今後,行政ルートの活用も視野に入れた権利侵害対策を講じていきたい,又は被疑侵害者として権利行使された場合の対応について必要な情報を得たい日本企業にとって手元に置いておきたい実用的な一冊となっている。

(紹介者 会誌広報委員 T.K.

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