新刊書紹介
新刊書紹介
業種別にわかるデータ保護・活用 の法務Q&A
編著 | 北條 孝佳,阿久津 匡美, 河野 龍三,山岡 裕明 著 |
---|---|
出版元 | 中央経済社 A5判 424p |
発行年月日・価格 | 2021年4月9日発行 4,840円(税込) |
昨今の社会のデジタル化は社会構造や経済活動の変化,進展にも影響を及ぼしている。企業にとってもデータの利活用により新たなサービスの構築が可能となる一方で,データの扱いをおろそかにすることは大手通信教育事業会社による個人情報流出事件や就活サイト運営事業者が「内定辞退率」を予測し,企業に販売していた問題などに代表されるようにレピュテーションリスクにもつながり得る。本書は外部への説明責任と透明性を確保し,かつ国内外のデータ,プライバシー保護法制をも考慮したデータの有用性と安全性(情報セキュリティやデータ保護)確保のための企業体制の構築の指針を示している。さらには,企業資産としてデータを新たなビジネスに利活用することにも言及している。
その中で特筆すべきなのは,データ保護・活用に関する法務について業種別に解説している点である。JIPAの会員企業の中核をなす製造業はもちろんのこと,金融業やIT業,医療業など,業種別にQ&A形式で留意点が解説されている。業種分類はあくまで便宜的なもので,異業種に分類・記載されている項目であっても大いに役立つ。例えば,IT業に記載されている「リーガルテックと弁護士法」である。リーガルテックとは法的なサービスを提供するためのテクノロジーを指すが,弁護士法人でない企業が営利目的で提供するリーガルテックサービスは弁護士法72条との関係で,弁護士以外の者による法律事務の取扱いに該当しないか,との論点が示されている。評者の所属企業でもリーガルテックの利活用が課題となっているが,こうした論点と具体的な留意点を本書によって知ることができ,興味深かった。評者は製造業で知財契約を担当しているが,他にもIT業の項目に分類されていたプログラム開発契約の留意点や民法改正に伴うソフトウェア開発委託のモデル契約書の留意点などは,業務を遂行する上でも有益な内容である。
デジタル技術が進展する第四次産業革命を背景に,データが企業の競争力の源泉として注目度を高める一方で,個人情報の権利保護意識の高まりなどもあいまって,データを適切にマネジメントするための社内体制の設計,構築も重要となる。また,昨今のデータに関するビジネスを理解するには特定の法令だけでなく関連する様々な法令への理解や業界を横串的に俯瞰できるマクロな視点が重要となる。本書はそのための指標として,手元に置いておきたい一冊である。
(紹介者 会誌広報委員 K.I)