新刊書紹介
新刊書紹介
英和対訳 ソフトウェアライセンス契約の実務
編著 | 弁護士法人イノベンティア 編著 |
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出版元 | 商事法務 A5判 384p |
発行年月日・価格 | 2021年2月発行 3,960円(税込) |
知的財産のライセンス契約に関する書籍はしばしば見かけるが,ソフトウェアライセンスに特化した書籍はそう多くはない。実際に企業でも,契約担当者が特許や商標などのライセンス契約と同様の感覚でソフトウェアライセンス契約に対処している例も少なくない。この点,編著者は,ソフトウェアライセンスと通常の知的財産ライセンスとは根本的に異なり,このような目線でレビューしてもソフトウェアライセンス固有の問題点を把握できず,陥穽に嵌ると指摘する。本書は,契約の目的や利用局面など,通常のライセンス契約との違いに触れつつソフトウェアライセンスの仕組みを逐条的に解説している。また,ソフトウェアの提供形態は時代とともに変化していることを踏まえ,伝統的なライセンス契約の他にも,近年増加しているSaaS型クラウドサービス契約にも言及している。
この他,本書の特徴を2つ挙げる。1点目はエンドユーザーライセンスおよび開発用ライセンスの二つの場面を想定した,詳細な条文例である。契約関係の解説書には実務では使えない粗雑な条文案しか記載されていない書籍もしばしば見受けられる。一方で本書には,複数の条文例が表現のバリエーションを設けて紹介されている。とりわけ一般条項の条文例は,他の英文契約にも応用可能である。
2点目は随所に登場するコラムである。コンメンタールの書籍は無味乾燥な構成となってしまう傾向がある。コラムは法令や契約に関する知識の補強としての位置付けと思われるが,実務上有益な情報が数多く含まれており,知的好奇心を刺激してくれる。一例として,秘密保持条項における秘密情報の範囲に関する記事を紹介したい。秘密保持条項で,開示者側に有利な内容とすることを目的として,「開示者が開示した情報を全て秘密保持義務の対象とする」,とする旨の規定をしばしば見かける。この点,かかる規定が当事者間で合意されていても,秘密情報の対象は開示者が現に秘密管理しており,かつ事業活動に有用な情報に限定する,と契約文言を限定解釈する旨の裁判例が紹介されており,編著者からも具体的に定義すべきことが提案されている。契約担当者にとって傾聴に値する指摘であろう。
以上の通り,本書はソフトウェアライセンス契約の特徴を把握する上で有益な書籍である。通常の知的財産のライセンス契約との相違点,ということがテーマなだけに一定の実務経験を前提としているものの,その分読み応えがある。
是非手に取って頂きたい一冊である
(紹介者 会誌広報委員 K.I)
数値限定発明に特有の留意点の解説 〜明細書作成時から特許訴訟時まで〜
編著 | 野中 啓孝 著 |
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出版元 | 経済産業調査会 A5判 220p |
発行年月日・価格 | 2021年4月5日発行 2,420円(税込) |
本書では各項目で判決文を多く紹介している。最終的に判断を下すのが裁判所のため,その裁判所の考え方を理解するためには判決文も読んだ方が好ましいのは言うまでもない。解説するにあたり,直ぐに参照できる様に,判決文や特許公報の該当部分も掲載してあるが,その部分は枠で囲って引用であることがすぐに分かる。判決文を読むのに慣れていない方は,そこを飛ばしても理解できる様にしてあるので,心配は無用である。
また,数値限定発明・パラメータ発明に関して細田芳徳弁理士が著書「化学・バイオ特許の出願戦略」中で行った分類に倣い,対象とする特許がどの分類に属するかをフローチャートと共に解説している。この分類は,その後も何度か登場するため,このページに栞を挿んで読むことをお奨めする。この分類に従って特許を分類し,明細書作成する場合の注意点,他社特許に対する対応の考え方を解説している。他社特許は,タイプにより,注意すべき特許と,それほど気にしなくてよい特許が存在するため,どのタイプに分類されるかを知っておくだけでも少しは負担軽減となる。
第2章「進歩性」,第3章「記載要件」は主に権利化に関する注意点の解説である。これらの章は,明細書作成時に参考になる。第4章「権利行使」では,例えば,権利化する時は問題とならないが,被疑侵害品における,測定バラつき,測定結果の有効数字などで,権利行使する場合に問題となった点を解説している。
権利行使された場合の対抗手段の一つである先使用の抗弁であるが,残念ながら先使用の抗弁が認められるハードルは高いようである。そのため,如何に準備すべきかを第5章「先使用の抗弁」で提言している。
冒頭で述べた「当たり前のことが特許になって」という点に関しては,第6章「創作物アプローチとパブリック・ドメインアプローチ」で一つの章としてまとめてある。それぞれの考え方も解説し,企業にとって腑に落ちないと思われる裁判結果が多い理由を解説している。こればかりは,最終的な判断を下すのが裁判所のためどうしようもないが,こういう考え方で審理していることを理解しておくと,対策も取りやすいであろう。
本書は,一度読んでおしまいではなく,自身が直面している事案と照らし合わせて,どの事例に近いか,または複数の事例の間なのかを見極め,最善の策を練るのに使っていただきたい。
(紹介者 会誌広報委員 M.I.)