新刊書紹介
新刊書紹介
令和元年改正意匠法の解説および新たに保護される意匠の実践的活用テクニックの紹介
編著 | 加島広基 押谷昌宗 著 |
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出版元 | 経済産業調査会 A5判 260p |
発行年月日・価格 | 2020年10月27日発行 3,080円(税込) |
本書は全体で5章構成となっており,第1章から第4章では,「画像の意匠」「建築物の意匠」「内装の意匠」「関連意匠」それぞれについて保護の背景や改正の内容,出願書面の記載事項,登録要件の基本的事項を説明した後,実践的テクニックの紹介をしている。その上で,第5章では,海外の意匠制度の比較や国外意匠の活用についての実践的テクニックの紹介をしている。
例えば,第1章「画像の意匠の保護」では,新設の画像自体として保護を受ける出願方法と従来の物品の部分としての保護方法のどちらを選ぶのが実務上メリットが大きいか,法改正前に既に物品等の部分として意匠登録出願を行った画像について,関連意匠として画像そのものの意匠も出願することで権利行使の対象を広げる事など,実務で疑問に思う点や,すぐに使えるテクニックが紹介されており,大変役立つ内容である。
また,新任の意匠担当者が躓きやすい,各国ごとの図面要件等の意匠制度の違いが,今回改正のあった登録対象について説明されており,痒い所に手が届く内容になっていると感じる。
本書が優れているのは,意匠法の改正部分の解説を丁寧に行い,その上でさらに実践的テクニックを紹介している点である。入門者にとって読みやすく勉強になるだけでなく,ある程度意匠関連の業務経験がある方にとっても実務的テクニックを学ぶため,自身の普段の業務を確認するために大変使いやすい内容と言える。入門者は,まず,この本を読んで令和元年改正意匠法と実務で使える基本的なテクニックを学び,次に実際の登録例や各国の登録要件などを確認することで改正意匠法と関連する各国制度の知識を深めていくのが良いと考える。
本書は,意匠法の改正部分を網羅的に学ぶための基本書としても,基礎的な事項については分かった上での実務的なテクニックを学ぶためにも有用な一冊である。意匠業務の入門者をはじめとして,意匠業務に従事する知財部門の方はどなたでも持っておいて損のない一冊だと言える。本書を通読した後は,常に机の上に置いておき,必要に応じて参照するという使い方もおススメしたい。
(紹介者 会誌広報委員 C.N)
プラットフォームビジネスの法務
編著 | 岡田 淳、中野 玲也、古市 啓、羽深 宏樹 編著 |
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出版元 | 商事法務 A5判 356p |
発行年月日・価格 | 2020年11月発行 4,180円(税込) |
プラットフォームは現代社会にとって不可欠な存在となっている。検索サービスやSNSをはじめ,オンラインショッピングモールや動画配信,飲食店の予約から婚活サイト,転職サイトまで,様々なサービスが提供されている。その意味でも,本書はビジネスの観点のみならず,我々の日常生活とプラットフォームの関わりを振り返る上でも興味深い内容だった。
本書の特徴を三点挙げる。一点目は分類のユニークさである。プラットフォームビジネスを類型化するにしても,当該ビジネスの独創性の故にその位置付けが困難な場合が少なくない。この点,例えば飲食店のサービスについて,宿泊施設や理美容室とともに「サービス予約型」に分類し,これらのサービスにおける共通の課題であるランキング制度や口コミ制度,無断キャンセルといった問題についての法的論点を取り上げている。このことは,実際のリーガルリサーチの観点から各ビジネスを検討する際に,適用される法令・規制が逆引きしやすくなっており,読者にとってもやさしい仕組みとなっている。
二点目は,全てのビジネスに共通して適用される四つの法,すなわち「デジタルプラットフォーム取引透明化法」,「独占禁止法」,「個人情報保護法」および「プロバイダ責任制限法」について独立した章を設けて手厚く解説していることである。いずれも,IT分野では特に重要な法令である一方で,ガイドラインなどを読んでも抽象的な部分も多く,自社のビジネスで気を付けるべき点はどこなのか,不明確なのが実情である。この点,プラットフォームビジネスに特化し,手厚く解説している本書は貴重な存在と言える。
さらに,米国やEU,中国の規制動向も紹介されている。発刊時点である2020年秋頃までに生じた考慮すべき事項は広範囲に網羅されているものの,プラットフォームに対する法規制をめぐる議論はいずれの国や地域においても現在進行形のため,執筆時点での最新動向に留まる。しかし,基本的な考え方やその枠組みは将来においても応用できるだろう。この点,執筆者も今後本書を都度改定することを想定しているようである。実際に,本書の発売直後に生じた米国大統領選についての,SNSをはじめとするプラットフォームが負うべき役割や責任など,今後専門家に深掘りして欲しい事項も少なくない。
今後の続編に是非注目したい一冊である。
(紹介者 会誌広報委員 K.I)