新刊書紹介
新刊書紹介
Q&A 独占禁止法と知的財産権の交錯と実務
編著 | 永口 学,工藤良平 編著 |
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出版元 | 日本加除出版 A5判 340p |
発行年月日・価格 | 2020年8月発行 3,960円(税込) |
本書の基礎知識編では,独禁法と知財法について,知財法との関係を定めた独禁法21条および知的財産ガイドラインの全体像も含めて俯瞰している。次に応用編で,標準化活動やパテントプール,デジタルプラットフォーマー,標準必須特許などを取り上げている。応用編では,パテントプールの形成や共同開発契約の実施に際しての留意点について,公取委が作成したガイドラインを踏まえて具体的事例を挙げながら詳細に解説している。この点,業務上情報通信分野の業界と関わる機会が多い評者にとって,これらについての知見を深めることができ,有益であった。
応用編では,独禁法における最新トピックスに関する論考が興味深かった,例えばデジタルカルテルについてである。これは,価格決定の過程にアルゴリズムが関与した結果,人の意思が介在せずにカルテル類似の結果が生じることであるが,カルテルの成立要件である当事者間の意思の連絡がなく,現状の独禁法(競争法)では規制できないようにも思える。この点,現行法令の趣旨を踏まえた従来の枠組みからの対処策は実務を担当する評者にとって参考になった。また,製薬業界におけるリバースペイメントについての考察も考えされられた。リバースペイメントは,市場への参入を遅らせることと引き換えに,先発医薬品メーカーが後発医薬品メーカーに多額の金銭を支払うことである。医薬品承認制度を採用している日本ではリバースペイメント自体生じにくいが,米国,欧州などにおいては競争法上問題となることが多く,その事例や考え方を紹介している。
独禁法,知財法ともに企業の法務部員や知財部員にとって,その重要性から一定の理解は必須と言えるだろう。一方で検討すべき論点が体系的に整理されている書籍はそう多くはないと言える。この点,いずれの法令の最新テーマにも言及している本書は,理解を支えるためだけでなく,より専門的な論点へと挑戦するための知的好奇心を満たしてくれるだろう。
(紹介者 会誌広報委員 K.I)
米国特許法講義
編著 | 武重竜男,荒木昭子 著 |
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出版元 | 商事法務 A5判 272p |
発行年月日・価格 | 2020年9月発行 3,850円(税込) |
本書は,まず第1章で米国の特許制度の歴史やクレームのドラフティングに関する基礎的な事項が解説されている。第2章では,特許要件に関する特許法上の規定と,現在の運用のもととなる判例について詳しく解説されている。第3章では,特許権の権利者や共同発明者の権利の考え方について解説され,第4章〜第6章では特許権侵害にかかる論点,第7章〜第9章では特許権にかかる手続きについて解説されている。第10章では意匠特許の特徴がまとめられており,第11章では近年注目されている標準必須特許とパテント・プールに関して,米国での議論状況が解説されている。米国が判例法(コモン・ロー)の法域であることから,米国特許法の考え方のベースとなる19世紀〜20世紀前半の古い判例も多く解説されているが,もちろん最新判例や最新実務にも対応しており,この一冊で米国特許法の歴史と今を体系的に学ぶことができる。
日本の特許法との違いにも触れられており,特許適格性を例にとると,日本の特許法では発明の定義が2条1項で明確に規定されているのに対し,米国の特許法101条では特許適格性の認められる主題について広い概念だけが規定されていて,判例法にて例外ルールが作り上げられてきた。制定法の法域に属する日本と,判例法の法域に属する米国との違いがはっきり表れており,特許法上の保護対象そのものから考え方が違うのか,と印象に残った。
米国特許法に関する実務書はこれまでにたくさん出版されており,いざ米国特許実務を勉強しようとすると,どれを選んだらいいのか迷ってしまう人は少なくないだろう。私は,米国特許実務を学ぶための最初の一冊としてぜひ本書をおすすめしたい。
本書は,帯にも「米国特許法を深く学ぶための基礎体力を養い,留学経験の有無にかかわらず,米国ロースクールでの学びを味わうことができる」と書かれているように,米国ロースクールの講義のコンセプトを活かしつつ,米国特許法の基本的な考え方を丁寧に論じていることが特徴である。興味のあるテーマだけ拾って読んでも参考にはなるが,本書は272ページととてもコンパクトにまとめられているため,ロースクールの授業を受けるような気持ちで,ぜひ一冊通して噛みしめながら読んでもらいたい。
(紹介者 会誌広報委員 T.S)