新刊書紹介
新刊書紹介
ライセンス契約のすべて 実務応用編
〜交渉から契約締結までの リスクマネジメント〜 改訂版(改正民法対応)
編著 | 吉川達夫 森下賢樹 編著 |
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出版元 | 第一法規 A5判 264p |
発行年月日・価格 | 2020年6月15日発行 3,850円(税込) |
本書は4部で構成されており,第1部では,ライセンス契約作成に際しての検討事項を,複数の視点から解説している。これは,本書の付録でもあるモデル契約書ダウンロードサービスともあわせて,より良い契約書作成の指針となるであろう。
第2部では,12もの失敗事例が取り上げられている。いずれも実在の事例をベースにしていると思われるが,実務担当者であっても他社の具体的な失敗事例を耳にする機会は決して多くはないだろう。この点,ライセンス契約の条件交渉において,ロイヤルティの算定料率は議論の対象となる一方で,ロイヤルティに賦課される源泉税の負担について契約上規定しておらず,結果として契約締結後にどちらが負担すべきかについて当事者間で紛糾した例や,特許ライセンスにおいて許諾製品の定義が不明確であったため,当初想定していた完成品としてではなく部品の形で輸入され,結果としてライセンサーは予定していたライセンス収入が得られなかった事例などが紹介されている。
第3部では,ライセンス契約の交渉術について,ライセンサーとライセンシーのそれぞれの立場からの交渉戦術や基本的なライセンス契約に対する対案を例示している。契約交渉で自社に不利な契約を締結しないためには対案を示すことが重要であるため,実践的と言える。
また,第4部のライセンス契約モデル契約書集では,技術援助ノウハウ契約などの一般的な契約に限らず,製薬業界におけるライセンス契約やアフィリエイト契約,国内および国際フランチャイズ契約の留意点について,それぞれのビジネスの特徴や特有のリスク,関連する法令にも触れながら紹介されている。いずれも実務でも準用可能な程度の詳細かつ丁寧な例文が解説とともに掲載されており,これらの契約に関わる機会が少ない業界の担当者でも,記載されている例文や考え方は自身の事業分野に十分応用できると考える。
本書は一定の実務経験を前提としている分,読み応えがあるが,不安がある方は本書と同時期に改訂版が発行されている姉妹本「ライセンス契約のすべて 基礎編」とセットで読み進まれることをお勧めしたい。両書とも知財・法務などの実務担当者のみならず,事業部門や営業担当者など幅広い読者層にとっても有益な指南書と言えるだろう。
(紹介者 会誌広報委員 K.I)
防衛技術の守り方(日本の秘密特許)
編著 | 櫻井 孝 著 |
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出版元 | 発明推進協会 A5判 340p |
発行年月日・価格 | 2020年8月発行 3,300円(税込) |
秘密特許制度は,日本における最初の特許法にあたる「発明専売特許条例」の制定当初,明治18年から存在していたのには少し驚いたが,当時は富国強兵を推進していた時代であり,そういう意味ではよく考えられた内容ともいえる。本書ではその後の4度にわたる法改正の変遷と,その当時の秘密特許についても一部紹介している。
秘密特許の最大の問題ともいえる「誰が秘密認定するか」について,秘密認定した経緯や,陸軍省と海軍省との書簡が紹介されている。陸軍省と海軍省の仲が悪かったことは有名であるが,競い合う中でも互いに協力していたという事実は興味深いものがある。
本書で紹介している秘密特許には,航空機に関する技術も多く紹介されており,また映画でもお馴染みの堀越二郎の名前も登場する。そのほか,エンジン冷却技術という現代に通じる内容も掲載されており,当時の技術者の苦労が垣間見えるのも面白い。そんな中で個人的に興味を引いたのが,航空機ではないが,九一式徹甲弾の特許である。何十年か前に読んだ子供向けの本の中に,戦艦大和の主砲の砲弾として紹介されていた技術で,当時読んだ本では大雑把な図しかなく,なぜ効果があるのか理解できなかったが,本書ではもっと正確な願書添付の図面も掲載してあったため,図面を見て効果が納得でき,すっきりした。
第二次世界大戦以前は,今ほどビジネスのグローバル化が進んでいないため,技術も国内で完結することが多かったと思われるが,仮に,現代において秘密特許制度を導入するとしたら,企業活動にどの様な影響があるのか,ということは気になる点である。明治30年代で秘密特許制度の導入が確認されているのは日本以外で4か国しかないが,現在では,秘密特許制度は多くの国で導入されている。他国に倣って日本にも導入する場合,軍事技術のみならず,紙幣の偽造防止等の公序に関する技術も含めるのか,その場合の問題点は,といった考察がなされており,制度導入には多大な検討が必要であることを示唆するものである。
本書で参考にした資料は,J-PlatPat内の特許関係の資料と,国立公文書館アジア歴史資料センターのWebサイトで公開されている各種資料で,ここから情報を集めるだけでも多大な労力が掛かったと思われる。歴史書をひもとくつもりで読んでいただきたい1冊である。
(紹介者 会誌広報委員 M.I.)