新刊書紹介

新刊書紹介

知財トラブルの出口戦略と予防法務紛争解決へのアプローチとリスク管理

編著 阿部・井窪・片山法律事務所
  服部 誠・中村 閑・大西ひとみ 著
出版元 ぎょうせい A5判 336p
発行年月日・価格 2020年5月発行 3,800円(税別)
 本書は国内企業同士における特許,著作権,商標,意匠,不正競争防止法違反等の各種知的財産について,紛争が発生した場合にどのような手順を踏まえて解決を模索すべきか,およびこのような紛争を未然に予防するためにどのような対策を講じておくべきかを,権利者と被疑者双方の立場から各種権利別に解説している。
 一般に,知的財産に関する紛争は,権利者が被疑侵害者による製造,販売といった被疑侵害行為を発見して被疑侵害者に警告書,通知書を発送し,両社で解決に向けた話し合いが開始される。交渉が決裂した場合は,権利者が権利行使を断念しない限り訴訟等の法的手続きに発展することとなる。これらの過程で,権利者と被疑侵害者がその対応を誤れば,紛争が長期化したり過大な手間と費用が発生したりすることとなりかねない。この点,数多くの知財紛争に携わってきた著者による紛争の未然防止策や対処策は傾聴に値する。教科書的な講釈に留まらず,各所で警告書やこれに対する回答書のサンプル,交渉において主張すべきこと,言ってはいけないことのポイントなどが纏められている。 知財紛争に関する書籍は数多く出版されているが,ここまで実務に深く立ち入ったものはそう多くはないだろう。とりわけ,参考文献が決して多いとは言えない著作権や意匠権の紛争の解説は,実務当事者にとって貴重なものと言える。
 第1編の「基礎編」では,特許や実用新案,著作権,商標,意匠,不正競争防止法に関する基礎知識がまとめられている。とりわけ商標や意匠の部分では図表が多用され,初学者でも分かり易い解説がなされている。第2編の「権利者側の予防法務と出口戦略」では,権利者の視点から実際の権利侵害行為を発見する前に普段から留意すべき事項を整理しているとともに,実際の侵害行為を発見した際の対処方法が示されている。第3編の「被疑侵害者側の予防法務と出口戦略」では第2編とは立場を変えて被疑侵害者側の立場から,開発,量産開始前および開始後のそれぞれの段階で他社の権利を侵害しないための注意点を整理しているとともに,実際に権利侵害の警告を受けた場合の対処策が示 されている。
 本書は実務担当者のみならず,とりわけ知財部門のマネジメントに携わる方たちにお勧めしたい。前述の通り,知財紛争は勝ち負けに関わらず莫大なコストと手間がかかる。また,被疑侵害者になった場合は世間的にもトラブルを抱えている企業というイメージを与えてしまい,レピュテーションリスクにもつながり得る。そのような事態を避けるための事前予防策および,実際に生じてしまった場合のリスクの極小化を図る体制構築のための指針として頂きたいと思う。

(紹介者 会誌広報委員 K.I)

外国意匠登録出願の実務

編著 吉田 親司 著
出版元 経済産業調査会 A5判 560p
発行年月日・価格 2020年6月12日発行 5,500円(税別)
 本書は,外国における意匠権取得の指南書であり,第1章〜第3章の全3編から構成される。第1章は「外国意匠登録出願の実務」について述べられている。本章を読めば,日本の意匠登録出願を基礎として外国に意匠登録出願する際に検討すべき種々の事項を把握することができる。
 例えば日本には,部分意匠,関連意匠,一意匠一出願,組物の意匠,新規性喪失の例外規定及び秘密意匠等の特徴的な保護制度が存在するところ,諸外国の全てが必ずしもこれら日本の特徴的な制度を採用しているわけではない。よって著者は,日本において出願した意匠が外国においても適切に保護を受けることができるように,日本に出願する段階で事前に整合性を図る必要があると提言している。
 また著者は,意匠を著作権的手法で保護するコピーライトアプローチを採用する国と,工業デザインととらえて特許権的手法で保護するパテントアプローチを採用する国とが存在することについて述べている。意匠の考え方の違いが各国の法制度に如実に表れていることを再認識することができる。
 第2章は「国別意匠登録出願の実務」について述べられている。グローバル化が進む近年,日本にだけ出願して権利化を図ることは少ない。本章においては諸外国に権利化を図る際の留意事項が国別に詳細に説明されている。取り上げられている国数は,実に30か国にも及ぶ。意匠は美的外観であり,発明と比較すると具体的であるため,特に発展途上国においては模倣されやすい。こうした意匠特有の実態に鑑みて,特許出願ではあまりなじみのない諸外国における出願手続きについて詳細に説明されている点でとても有益である。
 第3章は「国際出願の実務」について述べられている。日本は2015年にハーグ協定のジュネーブ改正協定に加入しており,また2020年には保護対象を拡充する改正意匠法が施行されていることもあり,今後このハーグ協定及びジュネーブ改正協定に基づく国際出願の増加が見込まれる。そのため本章で説明されている種々の事項は実務者にとって,とても有益な情報となるだろう。
 本書は日本の意匠法と外国の意匠法との違いを単に述べるにとどまらず,実務的観点からどのようにして各国で有益な保護を図ることができるかについて,広範な国数を取り上げて国別に詳細に説明したものである。意匠を本職とする実務家のみならず,グローバルに意匠に携わる実務家にもお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 S.T)

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