新刊書紹介
新刊書紹介
標準必須特許ハンドブック SEP Handbook
編著 | 藤野 仁三 編・著 FRAND研究会 編 |
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出版元 | 発明推進協会 A5判 424p |
発行年月日・価格 | 2019年8月発行 3,500円(税別) |
これまでなら,通信インフラや通信端末を製 造している企業だけがケアすればよかった標準必須特許(SEP)だが,今後は携わることになる企業が大幅に増えることが予想される。生活が便利になる一方で, 商品開発する立場からは,SEPの存在を痛感することになるであろう。知財担当者は,開発に支障を来すことのないようにSEPを取り扱うスキルの向上が要求される。
まえがきにもあるとおり,SEP研究で著名な藤野氏を中心とした有志が集まり,各国の判決をまとめて考察した結果を書籍化したものである。
本書の内容は,
Ⅰ.SEP理解のための基本事項
Ⅱ.世界のFRAND判例
Ⅲ.関連用語解説
の,三部構成となっている。
この中で,判例を紹介している第Ⅱ部が中心部分である。各国のFRANDに関する判決30件を,1.事件の概要,2.争点,3.判旨,4.解説という構成でまとめてある。
SEPに関係する事業であるということは,使用せざるを得ない特許が多数存在することを意味し,特許使用問題を解決しないと事業の安定は有り得ない。
そのため,FRANDに関してどの様な裁判が起こっており,どの様な判決が出されたのかは,実務を行う上で非常に重要な情報である。本書では,この30件の判決を,1件あたり約8ページとコ
ンパクトにポイントをまとめてあり,要点を掴みやすく,非常に読みやすくなっている。また,米国,欧州,アジアと地域ごとにまとめてあり,それぞれの地域のセクションの最初に,予備知識としてその地域のFRAND判例概観が掲載されている。米国編は,SEPの特徴,FRAND宣言の法的効果,差止請求権の行使等,SEPの全体的な特徴を解説している。欧州編では,SEPの誠実交渉義務に関する具体的指針を示した,欧州連合司法裁判所のファーウェイとZTEの判決を,本編とは別に紹介している。
重要判決であり,ここで予習をしてから,本編を読むことを薦める。アジア編では,中国,韓国,インドで,裁判において独禁法がどの様に扱われているかを紹介している。
FRAND判例概観は,どちらかというと,第Ⅰ部の「SEP理解のための基本事項」の一部だと思って読んでもらいたい。
もちろん,第Ⅰ章も分かりやすく書かれており,本書は,新たにIoT等の通信を利用することになった企業の担当者や,新たにSEPを担当することになった方にお薦めする一冊である。
(紹介者 会誌広報委員 M.I.)
共同研究開発契約の法務
編著 | 重冨貴光・酒匂景範・古庄俊哉 著 |
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出版元 | 中央経済社 A5判 268p |
発行年月日・価格 | 2019年11月1日発行 3,200円(税別) |
昨今の,第4次産業革命ともいわれる科学技術の目覚ましい発展に伴って,企業が単独で研究開発を行うことの限界がより一層認識されているなかで,他の企業との共同研究開発を 行うことの重要性が高くなっている。また,企業間だけでなく,産学連携による共同研究開発案件も増加している。このように,イノベーションを図るため,今後はこれまであまり 関わりのなかった異業種,ベンチャー,スタートアップなどの企業や大学との協業を図る機会が多くなると予想される。本書では,共同研究開発を円滑に進めていくために, 共同研究開発案件を6段階のステージにわけて整理し,どのような手順で進めていけばよいかを説明している。
パートナー探索・候補選定の第1段階,秘密保持契約を締結する第2段階を経て,お互いの アイディア,知見を出し合って共同研究開発の内容を検討し,共同研究開発契約書を 締結するべく協議していくのであるが,共同研究開発契約書を締結するにあたり,パートナーとともに本格的に共同研究開発を進めるべきか,躊躇したり逡巡したりすることも考えられる。これに対して,本書では,場合により第3段階としてフィージビリティ・スタディ契約を締結し,双方の製品・技術を評価するための 予備的なテスト等を実施するフィージビリティ・スタディを行い,共同研究開発の成功・実行可能性を事前に判断する期間を設けることを提案している。
フィージビリティ・スタディの結果からパートナーと共同研究開発を進めていくことを判断したうえで,第4段階の共同研究開発契約書を締結すれば,第5段階の共同研究開発におけるトラブルを 低減できるので,フィージビリティ・スタディ契約は第6段階の事業遂行まで共同研究開発を円滑に進めるために役立つ手法の一つであろう。
また本書では,共同研究開発案件の各ステージにおける法的,契約的な留意点を,文中・巻末の条項例や,関連する法律,判例を交え,筆者の実務上で相談をうける頻度が多い事項に関してはQ&Aを随所に散りばめつつ,分かり易く解説している。また,共同研究開発に関連した裁判例については,独立した章立てで,コメントを交えて分かり易く紹介しており,裁判に発展した紛争を通じて, 契約書の作成のあり方を含めて共同研究開発案件にどのように取り組むべきかを学ぶことができるようになっており,契約書を扱う実務者にお薦めできる一冊となっている。
(紹介者 会誌広報委員 Y.R)