新刊書紹介

新刊書紹介

留目弁理士 奮闘記!『男前マスク』と『王女のマスク』

編著 黒川 正弘 著
出版元 三和書籍 四六判 283p
発行年月日・価格 2016年9月10日発行 1,600円(税別)
 「下町ロケットを超えた!?」
 とてつもなくインパクトのあるキャッチコピーが本書の帯に記されている。下町ロケットといえば,高い技術力を有する町工場が特許紛争などの困難に巻き込まれながらも,工場の仲間や優秀な知財専門の弁護士と困難を乗り越えて いくあの話題作であり,知財がクローズアップされたことや,ドラマ化もされ,大ヒット作となったことは,皆様ご存知のところである。
 早速,素敵なデザインの描かれた,特徴的なタイトルの本書を手に取り,内容を拝見したが,成程,その記載にも一理ある内容であった。
 本書のキーマンは,下町の如何にも潰れそうな佇まいの特許事務所を経営する一見頼りない留目弁理士,この事務所で働くこととなった優秀だがややお調子者のサーチャー朝井香織,そして父の経営する下町工場でマスクの技術開発を行う開発部長で,クライアントとして留目の元を訪れる福田優介,この3人である。
 とある事情で経営が悪化した工場の経営を立て直すため,新たな技術開発や知財取得に向けてこの3人が頭を悩ませながら解決に向けて動くものの,そこには様々な問題が立ちふさがり,それを如何にして解決していくかが見どころの作品である。
 ここでお気づきと思うが,本書は普段本コー ナーで紹介する知財に関する専門書ではなく,知財を題材とした小説である。
 下町ロケットを超えたか? これはぜひ皆様に本書をお手に取っていただき,ご自身の目で確認いただくこととして,ここでは知財の部分に焦点を当て,本書を簡単に紹介する。
 本書は小説の形式であるものの,取り扱う知財のポイントが多い。権利取得の観点では,技術動向調査や発明完成に向けた着想,他社による模倣回避のための対策など,権利化にあたり検討すべき事項が作中で十分に理解できるよう になっている。もっとも,これだけではごく普通な話ではと思われる方もいるかもしれないが,本書では,工場を乗っ取ろうとする外国人の存在や,模倣品の日本への流入の問題も絡み,技術流出リスクや税関差止手続の重要性も扱われている。作中では留目らがこれらの対応に臨むのだが,実際の対処の難しさや心理面を感じられる点は興味深い。
 ところで,本書をひっくり返すと,その帯裏 に,「面白さに加え知財経営のコアがすべて網羅されているのが凄い!」とのこれまた気になるキャッチコピーが記載されている。
 本書で興味深いのは,小説の形態でありなが ら,前述のとおり知財で重要な要素が凝縮して 盛り込まれていることである。
 中小企業の経営者にとっては,そもそも知財 がどのようなものか,そしてそれを活用するこ とにどのような意味があるかを知るきっかけと なろう。弁理士にとっては,一人の弁理士の生き方を通じて初心を思い出させられる内容となっている。そして知財業界に携わる皆様にとっては,「あるある」と共感を覚えられる内容盛り沢山の一冊である。
 皆様,本書を読まないと損をしますよ!?

(紹介者 会誌広報委員 Y.H.)

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新・注解 商標法 上巻・下巻

編著 小野昌延・三山峻司 編
出版元 青林書院 A5版 上巻1,080p 下巻944p
発行年月日・価格 2016年9月28日発行
上巻15,000円 下巻14,000円(税別)
 本書は平成17年に発行された「注解 商標法」 (以下,旧版)の改訂版である。旧版から本書が発行されるまでの11年の間に他の産業財産権と同様,商標法に関しても多くの法改正がなされてきた。特に実務に大きな影響を与えたものとしては,小売等の役務商標の導入(平成18年法改正)や,音や色彩等の新しいタイプの商標の導入(平成26年法改正)等があげられる。旧版では当然のことながら,これらの法改正には対応していなかったが,本書はこれらの法改正の解説を追加するとともに,旧版以降の重要判決をも取り込んだまさに名実ともに「新・注解」書となっている。
 本書は,商標法の各条文を解説するいわゆる コンメンタールの形式をとっているので,大部の書籍ながら使い勝手が良い。実務で頻繁に問 題となる条文の内容を確認したり,めったに問 題にはならないものの他の書籍では十分な解説がない条文の内容を確認したり等,普段のとき はもちろん困ったときでも本書はいつでも頼りになる。
 各条文の解説は業界の第一線の研究者・実務 家が執筆しており,法律面・実務面から要点がコンパクトにまとめられている。特に第5条(商標登録出願)等の手続きに関する条文では,最新の商標審査基準(改訂第12版)に基づいて解説されており,企業の知財部員にとって,本書のみで実務を進められる点はありがたい。
 また各条文の冒頭には関連する参考文献がまとめられており,さらに理解を深めたい知財部員の道しるべとなっている。さらには,商標法に関する重要判決が判例索引として下巻にまとめられており,気になる判決を関連する条文の 解説とともに参照できる構成となっている。このように本書は実務の手引書としてはもちろん,自己研鑽の参考書としても利用できるものとなっている。
 旧版と比較して目を引くのは,第3条(商標 登録の要件)や第50条(商標登録の取消しの審判)等主要な条文に対して,関連する審決例や判決例が新たに追加・補充されている点である。商標の実務をしていると条文の解説だけで はどう対処していいかわからないときでも,類似した審決例等から対応のヒントが得られることが多い。本書のはしがきによると次回の改訂では3巻になるかもしれないとのことである が,このように参考になる審決例等が補充されるのであれば,むしろ大歓迎である。唯一,残念なのは実務上よく問題になる第4条1項11号の審決例等の表が旧版より改定されていない点である。これについては,次版での更新を期待したい。
 もっともこの点を措いたとしても,本書が旧版に比べパワーアップしていることは間違いなく,商標を有するすべての企業におかれては,商標審査基準と同様,本書も1セット常備する ことをお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 Y.U.)

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商標判例読解

編著 ユアサハラ法律特許事務所 編
出版元 経済産業調査会 A5判 630p
発行年月日・価格 2016年11月11日発行 6,000円(税別)
 本書は,ユアサハラ法律特許事務所の法律部の弁護士と商標意匠部の弁理士が合同で行ってきた,商標に関する判例研究の成果を纏めたもので,発行元である経済産業調査会の「特許ニュース」誌にて2013年度から「商標判例読解」 として連載された42回分の記事を,体系順に並べ替えて収録したものである。

 本書では,2012年5月から2016年2月までに言い渡された判決が,以下のように分類されてそれぞれ解説されている(カッコ内は各分類中で紹介されている判決の件数)。

【第1章 商標登録の要件】
使用の意思(1件),識別性(5件),未登録周知・著名商標との抵触(2件),公序良俗(4件)

【第2章 商標・商品等の類否】
結合商標の類否(4件),著名商標を含む商標(2 件),図案化されたアルファベット(1件),立体商標(1件),商品・役務の類否(2件)

【第3章 不使用取消審判における諸問題】
商標的使用(2件),商標の使用主体・商標の同一性(2件),指定商品の多義性(1件),

【第4章 商標の適正な使用(2件)】

【第5章 商標権侵害】
商標的使用(4件),過失の推定(1件),損害不発生の抗弁(1件),地域団体商標(1件),権利濫用(2件)

【第6章 審判・訴訟手続上の問題】
証拠の追加提出(1件),証拠の信用性(1件),審決の効力(1件),既判力の拡張(1件)

 上記を見て分かる通り,実務上重要な様々な論点に関する判決が紹介されており,自分の関心のあるジャンルの判決を読むのはもちろん, 商標関連訴訟の近年の動向を幅広く学ぶのにも役立つものとなっている。また,特に議論の多い観点については複数の判決を取り上げ,より深く知ることができるよう配慮されている。

 なお各判決の解説記事は,「事案の概要」,「裁判所の判断」,「検討」を基本構成としつつ,事件によっては,それを理解する上で必要となる追加情報として,詳細な経緯や当事者の主張,関連判決や実務上のポイントなども記載されている。本書の「はしがき」ではこの点を,「体裁に不統一な部分があり…(略)…ご不便をおかけする」と述べているが,記載すべき情報を取捨選択し,必要な部分を丁寧に説明している ことから,むしろ読者に便利な印象を与えるものである。

 文量は1件の判決について十数ページとなっているが,上記の基本構成と追加の各項目はそれぞれ3ページ前後とコンパクトに構成されている。特に各記事の最初のページには,判決日・裁判所名・事件番号・対象となった商標の書誌情報に加え,「キーポイント」として,争点と結論および実務上注目すべき点が数行で纏められているため,短時間で要点を把握したい読者は,これを読むだけでも参考になるものと思われる。

 類否や識別性,周知・著名性など判断の難しい要素を多々含む商標実務において,判例を学ぶ重要性は言うまでもない。本書は,実務上の対応指針を探る商標担当者にとって,近年の重要な判決を理解するための参考書として有用なものであり,ぜひ手に取っていただきたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 H.A.)

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