新刊書紹介
新刊書紹介
知的財産訴訟実務大系 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ
編著 | 牧野利秋・飯村敏明・髙部眞規子・ 小松陽一郎・伊原友己 編集委員 |
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出版元 | 青林書院 A5判 1732p(合計)Ⅰ:574p,Ⅱ:596p,Ⅲ:562p |
発行年月日・価格 | 2014年6月10日発行 各6,700円(税別) |
なんといっても興味をひくのが,第1部とし て,巻頭に収録されている知財高裁歴代所長による座談会であろう。この部分だけでもという ことで, 書店で手に取られた方も多いのではないだろうか?
しかしながら,第2部の与える満足感は第1部のそれに勝るとも劣らないものがある。
知的財産分野のすべてを俯瞰するといってよ いテーマについて80編の解説が掲載されている。取り扱われている法分野は特許法・実用新 案法・意匠法・
商標法・不正競争防止法・著作権法と幅広いが,それに加えて,一般不法行為との関係性や訴訟関係も取り上げられている点
も興味深い。そして,それらの解説全てが,実務家である裁判官・弁護士によりなされており,まさに「ここが知りたかった」という実務のニーズに応える
内容となっている。
一方で,かなりのボリュームではあるため躊躇される方もいるのではないだろうか? しかし,本書のテーマ・解説とも,一つ一つが完結しており,
自分の興味のある範囲や自身の業務と関連の深い領域から読み進めていくこともできる。少しまとまった時間があれば,法分野ごとに通読すれば,教科書的な知識ではなく,
実務上「使える」知識でその分野を理解することができるであろう。
知的財産権法関連の解説が充実していることは,あらためて指摘するまでもないが,見逃してしまいそうな, 第7章「全体問題」が必読である。ここでは,国内・国際管轄,侵害行為の立証,侵害訴訟における原告適格,特許訴訟における審理体制と審理の実情といったテーマが取り上げられて いる。これらのテーマは,日々の業務に追われる中,おのずと後回しとなりがちな部分と思われる。また,業務上,必要に迫られたとしても,民事訴訟法を一からひもとき, 知財訴訟に当てはめる作業は,ハードルが高い。 本書で掲載されている解説は,コンパクトでありながら,網羅的なものとなっており,基礎知識としては,必要にして十分と 言えよう。
全三巻1,700ページを超える大書のため,手を出しづらい厚さであることは否定しないが, 本書に取り組むことにかけた時間以上の大きなリターンが得られることは 間違いがない。企業実務に携わる方々にこそぜひともおすすめしたい一冊である。
(紹介者 会誌広報委員 Y.Y)
新刊書紹介
論点別 特許裁判例辞典 迅速な調査と活用のために
編著 | 高石 秀樹 著 |
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出版元 | 中央経済社 A5判 440p |
発行年月日・価格 | 2014年6月13日発行 5,800円(税別) |
特許侵害判断のため,特許無効性の判断のため過去の裁判例の調査・検討は必要ですが,裁判例を読みこなし,必要な時にすぐ関連する裁判例を引出せる特許実務者は 多くはないと思われます。本書は,その作業を容易にしてくれます。
本書は,特許侵害訴訟及び審決取消訴訟の裁判例を集積し,論点ごとに出願人(特許権者) に有利な事例と不利な事例を分析し,特許実務で活用できる有益な情報を
提供するものです。
著者は米国ロースクールに留学し,米国ロー ファームで実務研修をした際,有利な裁判例を探す作業に明け暮れた経験から,日本裁判実務においても,有利な裁判例を 探す作業は重要であり,
そのためのデータベースの構築が非常に有用であると考えています。
著者は裁判例の選別は私見に拠っているとしながらも,「知財管理」「パテント」「特技懇」「L&T」その他の特許関連雑誌はすべて確認し, おおむね網羅していると
信じている旨,述べています。
ありがたいことに,本書の各裁判例のまとめには,「裁判での出願人(特許権者)の勝ち・負け,当該論点についての出願人(特許権者)の有利・不利,実務上の
重要度」が明示され,本文中の重要箇所が赤字や下線で示すなど見やすく整理され,使いやすく工夫されています。
すべての論点を網羅しているわけではありませんが,実務上有用な 論点を優先し,第1章 無効論(実施可能要件・サポート要件・明確 性・クレームの記載要件・補正による新規事項追加・
拡大先願・発明の要旨認定・進歩性・他),第2章 充足論(クレーム解釈・均等論・ 間接侵害・他),第3章 その他(手続き違反・ 実施権・他)が400頁超にまとめられています。
また,あとがきでは特許出願実務中の中間処理においても 裁判例を使いこなすことを推奨 し,実際に特許出願実務において実践している弁理士より「意見書における
主張方針」としてそのノウハウが説明されています。
そこでは,特許庁においても,裁判所においても判断する案件はすべて異なるので,(最高 裁判所判例を除いて,)原則として,ある案件における判断が他の案件に
影響を及ぼすことはないとしながらも,拒絶理由通知を受けた場合に裁判例を使用して審査官をいかに説得するか「お勧め対応」が具体的に解説されていて興味深いものとなっています。
(紹介者 会誌広報委員 HO)