ちょっと一言

「ヒバチ(Hibachi)」2月号編集後記より

 外国を訪れると,日本では馴染みのない日本食を見かける機会があります。アメリカでは「ヒバチ(Hibachi)」という日本食のカテゴリーがあるのをご存じでしょうか。テーブルと一体になった大きな鉄板を使って,シェフが目の前で肉や魚介を料理するスタイルのレストランです。端的に言うと“鉄板焼き”なのですが,日本の鉄板焼きとは違った派手なエンターテイメントがちりばめられていて,アメリカでは一定の人気を獲得しています。

 先日,アメリカのとある「ヒバチ」レストランに家族で初めて訪れた時のこと。担当してくれたアジア人の男性シェフから,「君たちは日本人かい? このお店で10年以上シェフをしているけれど,日本人が来たのは初めてだよ」と言われました。周りを見渡すと,なるほどアジアとは違う顔つきのご家族が多いようです。私たちのテーブルをサーブしてくれたウェイターも,「なぜこの料理をヒバチと呼ぶのか知りません」と言いながら,何やらバツの悪そうな様子です。一抹の不安を感じつつビーフ・ヒバチを注文した私たちを前に,シェフは慣れた手つきで鉄板の上に油でスマイルマークを描き,そこに火種を投げ入れると,瞬く間に大きな炎が広がりました。ステンレス製のヘラをくるくる回し,軽快なリズムを刻みながら,海老,野菜,チャーハン,焼きそば,牛肉を次々と焼き上げていくシェフの見事な手さばきは圧巻。アメリカらしいボリュームとパンチの効いた味付けに,家族全員が大満足でした。

 食事中に突然,和太鼓が鳴り響いてハッピーバースデーの大合唱が始まったり,口でキャッチしろとばかりに,一口サイズに切った海老をシェフが口元めがけてヘラで投げてくるという無茶振りがあったり,気が付けば鉄板の上のお肉がすべてウェルダンになっていたりと,日本人としては戸惑うところがあったりもしますが,それも外国特有の醍醐味と思えば全く問題なし。むしろ,日本食の新たな一面を垣間見たようで,楽しく,美味しい時間でした。

 読者の皆様も,外国で見慣れない日本食に遭遇した際には,思い切って挑戦してみてはいかがでしょうか。日本では鉄板焼きに限らず鍋物もとてもおいしく感じる季節ですが,アメリカのヒバチもおすすめですよ。

  • 燃え上がる鉄板

(K.N)

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