ちょっと一言

「空港」10月号編集後記より

 空港はなんとも不思議な魅力のある場所だと思います。新しい出会いや別れ,決意や野望など,訪れた人々の思いを乗せて滑走路を飛び立つ飛行機の姿は,非日常と開放感をもたらします。飛行機が離陸する際の浮遊感と高揚感は,世界の広がりを予感させます。
 世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響により,特に2020〜2022年は海外への扉が一時閉ざされました。急速にオンライン化が進み,国内外問わず,リモート会議・業務が当たり前になり,多様な働き方の基盤ができました。その一方で,「リアルの価値」を強く再認識した時期でもありました。物理的な移動は偶発的な出会いと不可分です。多様な価値観や文化に触れることで,新たなアイディアや課題が生まれることもあるでしょうし,単純に大きな感動は人を次なる行動に突き動かすようにも思います。渡航自粛期間にテレビで見た空港のロビーは閑散としており,世界との繋がりが途絶えたような,どこか物悲しい雰囲気でした。
 渡航制限が解除され始めた2023年度に我々会誌広報委員会に転機が訪れました。委員会としての初の海外派遣です。ワシントンとニューヨークを訪問し,USPTO元長官 David Kappos氏とUSPTO長官 Kathi Vidal氏へのインタビュー,AIPLA(米国知的財産権法協会),IPO(米国知的財産権者協会)との意見交換会を実施しました。イノベーションをはじめとした多岐にわたる議題の中で,DE&I Societyワーキンググループの支援もあって,特にDE&Iに関する取り組みや考え方について沢山の興味深い話に触れることができました。また,会誌広報委員会としては本誌の運営に留まらない「グローバルな情報発信」という新たな役割を果たすこともできました。
 そして,このリアルな体験から生まれたのが,今回の特集号「DE&Iと技術革新のシナジー −知財が担う役割−」です。論説やインタビューを通して,DE&I,技術革新,イノベーションと知財との関係性の整理から検証まで試みるのは,委員会としての新たなチャレンジでした。企画途中では,なかなか方向性がまとまらず苦労する場面もありましたが,海外派遣を糧として委員会の活動範囲を広げていくことで,まさに「リアルの価値」を読者の皆様と共有できるというのは,非常に感慨深いです。ご執筆,インタビューだけでなく,JIPA 上野専務理事,DE&I Society ワーキンググループとの意見交換等,沢山の方々と交流できたのも今回の特集号のテーマならではだと感じます。
 2024年度は,海外派遣第2弾として欧州を訪問します。特集号の延長戦の位置づけでWIPOやEPOにてインタビューを行い,DE&Iと知財の世界を更に広げていく予定です。
 「次はどのような新しい世界が広がるのか」そして「読者の方々にどのようなリアルな価値を共有できるのか」と,活気の戻ってきた空港のロビーで心を高鳴らせつつ,飛行機が飛び立つその時を待ちたいと思います。

(2024年特集号WGメンバー K.M,A.K)

  • 乗り継ぎ時のドバイ空港
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