ちょっと一言
「解放感と閉塞感」 3月号編集後記より
最近,山登りにはまっている。以前から興味はあったが,なかなか始められなかった。転機になったのは数年前にNHKの特集で「屋久島」の大自然の番組があり,一度屋久島に行ってみようと考えたのがきっかけだ。屋久島というところは,林芙美子さんが小説『浮雲』に「屋久島は月のうち,三十五日は雨というぐらいでございますからね」と書いたように雨が多く,ほぼ毎日1度は雨が降る。雨で濡れるのが嫌なので,登山用品店でハイグレードな雨具,防水性能の高い登山靴,防水ザックなどを奮発して購入した。
いざ屋久島につき,2日間現地ガイドを雇い,山登りをした。幹回り10mもある樹齢千年以上の杉や,どこまでも続く苔のパノラマの風景,固有種に近い昆虫,生物などをたくさん見せてもらった。
文句をいうのもおかしいが,この2日間は雨が一滴も降らない好天であり,地元ガイドさんも2日間ツアーに参加するお客で雨に合わないのは奇跡という程。この時はうれしいというより,雨対策用のフル装備が使えなかったことが非常に悔しかった。
屋久島旅行から数か月が経過した12月頃,装備品を1度くらいは使わないともったいないと思い,登山用品店のツアーに申し込んだ。知識がないというのは怖いもので,12月という季節のため,冬山ツアーの募集と書いてあったが気にも留めなかった。ツアーの事前説明会で装備品の質問を受けつけるとのことだったので,自慢の装備品を持って行ったところ,「そんな装備では凍え死ぬから,冬用装備を買って下さい」と言われ,またまたフル装備を買うことになってしまった。「山は道具をそろえたら,あとは登るだけだからお金が掛からない」と昔聞いた気がするが,時代は変わってしまったようだ。
時が経ち,今では標高3,000mオーバーの山にも行くし,ロッククライミングのようなコースも怖がらずに登れるし,マイナス15度の冬山でテント宿泊も気にならなくなった。 大自然の中の解放感を満喫でき,人生の楽しさも増したが,比例するように装備品が自宅の空間を埋め閉塞感さえ感じるようになった。その閉塞感から逃れ解放感を求めるために,さらに山に行くこの頃である。
(T.Y.)
- ロッククライミングのようなコース
- マイナス15度の冬山