ちょっと一言

「令和最初の…」6月号編集後記より

 6月も半ば,令和最初の梅雨を迎えた。災害をもたらさない程度に,恵みの雨となってくれることを祈ってやまない。「令和最初の…」巷ではよく聞くフレーズだ。昨年は「平成最後の…」をよく聞いた。 こう言うと,特別感が出る。

 さて,元号発表会見時の墨書に,違和感を覚えた人はいなかっただろうか。私の違和感の正体は,令の書き方だ。昭和終盤生まれの私は,令の下側は,マと書くように習った…はずだった。マではない令は,あくまで印刷文字だと思っていた。だが,あの墨書を見て,違和感と同時に不安を覚えた。今までずっと間違った認識で生きてきたのかもしれない。

 字の書き方といえば,昔こんなことがあった。ひらがなの「そ」だ。私は上部が離れない一筆書きで書いていた。しかしある日,私のその字を見た隣の子に,「なんか変だよ」と言われた。 周囲の数人にも確認したが,私だけだった。みんなが書く「そ」は,一画目に点を書き,上部が離れた2画だった。多数派ではない居心地の悪さと,隣の子が可愛かったこともあって,その日以来2画の「そ」に乗り換えた。卒業間近,小学校生活最後のこの衝撃を,未だに覚えている。

 果たして,今回はどうだろう。私が信じてきた令は正しいか。近年,人の字を目にする機会はなかなかない…。年賀状だ,たしか同級生の鈴木は今年も手書きでくれていた。鈴の字の右側は…マだ。 よかった。なんとも言えない安心感。あの鈴木と同じなら,きっと大丈夫だ。男だし可愛くはないが。平成生まれの数人にも聞いてみた。マだ。なんだ,今回の私の違和感は多数派か。そう思っていたのもつかの間,小学生があの墨書通りに書いている光景をテレビで目にした。今は学校でもこう教えているのだろうか。それとも墨書の真似をしただけなのか。これはそのうち,ちょっとした論争を 巻き起こすかもしれない。かつて,多数派の「そ」に乗り換えた私は,これから令をどう書いていこうか。いつか最愛の娘が成長して,一緒に字を書いたときに指摘されるその日まで,今のまま貫こうか。 じめじめとした梅雨に負けず,晴れやかな日々を過ごす私にとって,令和最初の悩みだ。

(J.T)    

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