ちょっと一言

「旅先での出会い」3月号編集後記より

 先日,京都を旅行して参りました。計画は立てずにのんびりと過ごそうと訪れたところ,様々な出会いがありました。

 通りがかりに入ったお蕎麦屋さんで出された酒器が印象的だったのですが,鴨川のほとりにあるご夫婦だけでの工房の品だと教えてもらい,早速翌日訪れてみました。住宅街の中に佇むその工房では,他のお客さんと一緒にお茶をいただきながら食器を眺めることができます。居合わせたお客さんは奈良で15年近く勤めたものの,モノづくりへの想いを断ち切れず,思い切って来月転職するのだと希望に目をキラキラさせていました。人生のほんの一瞬の交わりでしたが,彼の夢が実るようにと願いました。

 またあるお店で知り合った方は京都の有名なお寺の左官職人をされているということでした。当初は美大を目指していたものの,ひょんなことから左官職人になり,伝統ある寺を任されるまでになったその経緯は興味深く,聞き入ってしまいました。「親方や周りのおかげ」と話されるその謙虚さに,名職人の姿勢とはこういうものかと感じました。
別れ際に「よかったら,行ってみて下さい」とそのお寺の特別夜間拝観チケットをいただきました。すでに京都を離れる前夜,拝観したいと思いながらも叶わずに翌朝を迎えました。このまま持って帰るのは勿体ない,誰かにこのチケットを 託せないものかと京都の中心地へ移動しながら考えました。駅前で,観光客とおぼしき女性二人組に恐る恐る近づき,「これから京都観光ですか?」と聞きました。聞き方もいけなかったのでしょうか,寄ってきた私を何かの勧誘と警戒されたようで「違います!」と避けられてしまいました。結局チケットのことは言い出せないまま,その上不審に思われたことに少し落ち込みました。 空港に着き,諦めかけた時に京都行きのバスを待っているご夫婦らしき二人連れを見かけ,思いきって声をかけてみました。今度はチケットのことも説明でき,笑顔で受け取ってもらえました。京都でいただいたご厚意をバトンタッチできたような安堵した気持ちで旅を終えました。

 この一年間の会誌広報委員活動の中でも,多くの出会いがありました。多業種の方や執筆者との交流を通して,また事務局や他委員の方々に助けていただく中で,振り返ると世界が広がっていました。 今月で会誌広報委員を卒業しますが,この経験に感謝し,これからも知財管理誌を楽しみにしたいと思います。  

(M.I.)

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