ちょっと一言
6月号編集後記より
数年前に有川浩の「阪急電車」という小説がヒットした。本作は映画にもなっており、ご覧になった方も多いだろう。本作は、兵庫県にある阪急宝塚駅から西宮北口を経由して阪急今津駅までを結ぶ阪急今津線を舞台に、乗客が織りなす物語を各駅とともに回想するという作品である。 作者の有川浩は学生時代に今津線沿線に住んでいたことから、阪急への思い入れが強かったらしい。
阪急という路線は京阪神の地元民から「上品なイメージの私鉄」として愛されている。高級住宅街である芦屋付近を走るうえに、六甲山の山並みなど車窓から眺める景色が
綺麗だからというのが理由だろう。
そして、阪急電車といえば有名なのがその独特の車体の色、通称「阪急マルーン」である。渋めのワインレッドのような落ち着いた色で、RGBで表現すると69、28、29である。
この色は阪急電鉄の創業以来100年以上にわたって車体に使われており、路線そのものの雰囲気とも相俟って阪急の上品なイメージの象徴、一種のブランドカラーとして認知されている。 ご存知のとおり、昨年4月から色彩のみからなる商標の出願が日本でも認められるようになった。筆者も色彩のみからなる商標に関して社内で何度か議論をしたが、「あの色」 というだけで皆が一様にピンと来て、しかも同じイメージを共有できる色(特に単色)の具体例を挙げようとすると、案外思いつかない。そんなときに阪急電車の色を思い出した。 「阪急電車といえばあの色」と言うと「あー!あの色ね」といった感じで話にパッと花が咲く。さすが阪急。(もちろん関西でしか通用しない)
ちなみに、「鉄道による輸送」を含む39類では、JR各社と京王電鉄株式会社が色彩のみからなる商標を出願している。残念ながら「阪急マルーン」はまだ出願されていないが、関西人の憧れの色としていつか商標登録にチャレンジしてもらいたいと勝手に願っている。
そういえば、筆者が育った静岡県浜松市にも独特の色をしたローカル線が走っている。「赤電」の愛称で親しまれる遠州鉄道だ。車体を鮮やかな赤で塗装したことからそう呼ばれている。こちらの知名度はまだまだ阪急に及ばないが、いつか赤電も阪急マルーンと共にローカル線カラーとして商標登録される日が来ればいいなと、ひそかに期待していたりする。
(T.K.)