ちょっと一言

「私の年明け」12月号編集後記より

 時が過ぎるのは早いもので、今年も12月になり、忘年会や仕事納めが過ぎれば直ぐに年明けを迎えることになります。年明けと言えば初詣が思い浮かびます。皆様は初詣に行かれるでしょうか?

 私はここ数年、上野にある東京国立博物館に初詣として行くのが恒例になっています。この博物館では毎年の年明けに「博物館に初詣」と称すイベントが開催され、その年の干支や吉祥に因んだ所蔵品が特別に展示されます。このイベントは2004年の申年の年に始まり、今年の2015年の未年で干支が一順し、来年の2016年の申年で二順目になります。 新年早々のイベントであるためか、普段は博物館に訪れないであろう来館者も多く、結構な評判のようです。

 私自身は美術に精通している訳ではなく、初詣として博物館に行き始めた頃は、その年の干支に因んだ作品を観るよりも、「松林図屏風」などの国宝級の名品を観るのが目当てでした。ただ、これも何年か続けると、段々とその年の干支に因んだ作品に目が移るようになり、その作品の中から印象的なものを見つけるのが目当てになります。

 中でも特に印象的だったのは、辰年に展示された「自在置物」と呼ばれる「龍」を模した作品です。江戸時代の甲冑職人であった明珍による作品であり、現存する中では最も古い一つに数えられます。自在置物とは、この龍の他、伊勢エビやカニの甲殻類、トンボやカマキリの昆虫類、鯉の魚類などを金属板で立体的に写実した中空の金属製置物です。 金属板を金槌で叩いて立体的な部品を作り、部品同士をピンで止めて組み立てます。止めた部分は関節となり、実際の生き物の通りに滑らかに動かすことができるため、さながら 実物のようです。戦がなくなった太平の世の中で、甲冑の仕事が減った職人が生活や技術伝承のために甲冑の代わりとして自在置物を作るようになったと言われております。 甲冑を作る腕のある職人にしてみれば作品を作ることは御手の物なのでしょうが、その精巧な出来具合から相当な手間を掛けていたであろうことは作品を見れば想像に容易です。 実際に関節を動かしてみたいものですが、さすがに展示物を触ることはできません。

 所蔵品としては江戸時代から明治時代にかけての作品が有名ですが、現在でも作家がいて、その作品がインターネットでも紹介されており、身近に感じられる一面もあります。 このような技術は途絶えることなく末永く続いてもらいたいものです。来年の申年には何が展示されるのか、今から楽しみです。

 今年も皆様には大変お世話になりました。来年もどうぞ宜しくお願い申上げます。  

(N.I.)

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