ちょっと一言

人生を支えた「言葉」(その2)−チャンドラーの小説・フィリップ・マーローの台詞−

 秋田高校・校長・鈴木健次郎の言葉(その1)に続く「人生を支えた『言葉』」第2弾です。鈴木健次郎校長の言葉は、若い時代に影響を受けた言葉でしたが、今回の言葉は、会社のマネージャーになりかけた頃に出会ったものです。

研究所の先輩・Nさんから教えてもらいました。

「強くなければ、生きて行けない」
「優しくなければ、生きている資格がない」

初めて聞いたとき、「なんというキザなせりふだ」と思いました。
しばらく自分自身の中に埋もれていましたが、わが社の社長のY.S.さんに出会い、この言葉がムクムクと頭をもち上げてきました。

Y.S.さんは、社員全員と会話する能力をもっていました。お会いしたのは1999年、わが社がもっとも苦しかった時代でした。われわれ新任部長と経営について、研修所で語り合いました。あらゆる質問に、明確に答えてくれました。

そして最後に、「オレだってmind changeするときがある。でも、mind changeしたら、かならずみんなにそれを言うから」とおっしゃいました。

このとき、「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」というマーローの台詞が浮かびました。それ以来、知的財産部のリーダーとして、この台詞を常に意識しました。

当時は、特許係争が盛んな時代でした。毎月「警告状」が届きました。同業他社から、異業種から、外国から。それをすべて知的財産部が前面に立って闘いました。「強くなければ生きていけない」を自覚し、実際、強くなければ耐えることが出来なかったと思います。ほとんどの係争に勝利しました。
部内では、ひとりひとりと競争しました。「誰とでも『対等』」、そうしたリーダーであるべきと意識しました。Y.S.さんの教えの実行です。実務を知るリーダーとして各個人と競うことで、各個人のブラッシュアップを図りました。

その結果、各個人が輝けば、組織も輝きます。個人を大事にすることが「優しさ」と信じていました。知財子会社に赴任してからは、経営陣のひとりとして「employee’s satisfaction」を意識しました。

「優しくなれたかどうか」は、それを判断する「ものさし」がないので、よくわかりません。でも、なんとなく出来たのかなと思っています。いまでもにこやかに語り合える仲間が、知財部門に、研究所にたくさんいます。

「強くなければ生きて行けない」は「Win-Winの関係」を構築する必要条件として、「優しくなければ生きている資格がない」は、「誰とでも対等」という行動指針として、ワタクシの中で確固たるものになりました。

マーローの台詞に出会えて幸せでした。Nさん、Y.S.さん、ありがとうございました。

(M.S.)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.