ちょっと一言

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利範囲 −知財高裁・大合議−

久しぶりで、知財高裁の大合議が開かれました。知財高裁の大合議は、最高裁の裁判に近いもので、判例として長く引用されることになる重要な判決を行います。前回の判決が2008年5月でしたから、ほぼ4年ぶりの大合議ですね。今回は、「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の解釈についてでした。

特許部に入ったころ「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」について教えられたのは、これは『「物のクレーム」である、その方法で作られたものが新しい「物」であるならば、他の製造方法で作っても権利侵害になる。だから「物のクレーム」が作れないときは、とりあえず「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」を作って出願しておけ!』というものでした。ですから、製造方法の特許出願だったとしても、最後に「プロダクト・ バイ・プロセス・クレーム」をつけて出願しました。

今回の大合議で、そうした「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」に関する解釈がはっきりしました。

判決は、いままで小生が思っていたような『「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」は、製造方法クレームと同じと解釈される』>というものでした。

判決では、「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」を2つの場合に分けます。

  1. 真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム:物の特定を直接的にその構造又は特性によることが、出願時において、不可能又は困難であるとの事情がある場合
  2. 不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム:上記の事情がない場合
そして、不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合は、請求項にある構成要件をすべて満たさねば侵害にはならない、という結論でした、」

今回の特許請求の範囲は、下のとおりです。「プラバスタチンナトリウム」という物質のプロダクト・バイ・プロセス・クレームです。

物質としての特徴は、「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満である」ということで、不純物が少ないことを特徴としています。

そして、本特許は、「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であると断定しました。不純物が少ないというだけでは、新規な「物」ではないという判断が働いています。

その核心部分の判決文をみてみましょう。
【請求項1】
次の段階:
  1. プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
  2. そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
  3. 再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
  4. 当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
  5. プラバスタチンナトリウム単離すること, を含んで成る方法によって製造される, ・プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム

「物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載され ている場合,その記載は文言どおりに解釈するのが原則であるから,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに 該当すると主張する者において「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,もしその立証を尽くすことができないときは,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるものとして,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定するのが相当である」

そして検討の結果、
「特許請求の範囲請求項1に記載された「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」には,その製造方法によらない限り,物を特定することが不可能又は困難な事情は存在しないと認められる」と、述べている。

被告の製造方法は、a)を省略しています。なので、大合議は、「非侵害」という結論に至りました。

判決には納得します。

でもですね。「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム:物の特定を直接的にその構造又は特性によることが、出願時において、不可能又は困難であるとの事情がある場合」とは、どのような場合があるのでしょうか。これがよくわかりません。いったい、そのようなものがあるのでしょうか? 化成処理などで反応の物質が特定できない場合がありますが、その場合でも、結局は「物」としての特定が出来ないのですから、製法が違っても「同じものが出来ている」という証明は出来ません。

結局、『「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」は、製造方法クレームと同じと解釈される』ということになるのではないでしょうか。皆さんと議論したいですね。勉強会しましょう。

(追記)プロダクト・バイ・プロセス・クレームについては、特許第1委員会が詳細な検討を行っています。是非、3月度の関東部会、関西部会の資料をご覧ください。勉強になりますよ。

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(M.S.)

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