ちょっと一言
国体出場の夢
その年は私の居住する兵庫県で国民体育大会、いわゆる国体が開かれる年だった。
開催が迫る夏になると、街の中には国体キャラクターである「はばタン」が溢れ、県内を南北に走る自動車道が開通するなど、盛り上がりを見せていた。
そんな中、私自身も日増しにワクワクドキドキ国体開催を楽しみにしていた一人であった。
そう、エントリーしてしまったのだ、国体に。
とはいえ正式種目に出られる運動神経も実績も持ち合わせているわけもなく。
エントリーしたのは、「パラグライダー種目」。
デモンストレーション種目といわれる県民参加型の種目のひとつで、簡単に言ってしまうと「エントリーすれば誰でも出られる」のだ。
誰でも出られる種目であっても、国体出場は国体出場だ。
エントリーの受付が開始されるとすぐに申し込む気合の入れようである。
なんといってもこれを逃すと、恐らく国体出場なんてこの先無理な話なのは明らかなのだ。
パラグライダーの競技とは、指定されたテイクオフから飛び立ち、決められた地点を通って指定の着陸地へ降りる、そのタイムを競うのだ。
ただ飛んで降りるだけだと決められた地点を回ることは出来ないので、途中で上昇気流を捕まえながら飛ばなければならない。
経験と正確な飛行技術が問われる繊細な競技なのである。
私はといえば、競技など出たことも無ければ見たことも無い、単なる趣味パイロットである。
しかし、国体というもの「出場すること」が重要なのだ、エントリーリストに載ることで将来孫にも自慢できるといえよう。
社員食堂などで「国体出るねん。これで俺も国体選手やで〜」とお気楽に話しているのをどこからか広報室が聞きつけて、社内報への掲載依頼が来たときにはちょっとビビったが、私の気合が萎むことは無かった。
さて、2日間の日程が組まれた国体競技当日。
大会日程に合わせたような台風の接近ぶりに、もろくも私の気合は崩壊寸前となっていた。
1日目、大雨の中開催されたブリーフィング。早々に1日目のタスクはキャンセルと決まった。
天気予報では、翌日の雨は弱まるものの強風が残るとのことであった。
パラグライダーは動力を持たないため、強風下では飛べない、というか、どこに飛ばされるか分からないのだ。絶望的である。
翌日、雨はあがったものの、山の木々が倒れそうなほどの強風。
あきらめ気分でブリーフィングの開催される体育館へと行ってみると、なんだか不思議な雰囲気である。
ほどなく、選手たちが集められ・・・
「本日のフライトは、台風通過のためキャンセルとなります。
そこで、本日は代替種目としてペーパープレーンフライトターゲット競技として大会を開催することとなりました。競技ルールを説明します。・・・・・」
?????
一同ポカーンである。
話を聞いてみると、ペーパープレーンフライトターゲット競技とは、「紙飛行機で狙った場所へ飛ばそう大会」ということらしい。
つまり、国体の順位を紙飛行機大会で決めようというのだ。
あまりの大胆な方向転換に戸惑いつつも、内心は
「しめしめ、パラグライダーの競技だと上位入賞は難しいけど、紙飛行機だったら条件は皆同じだ。というか、小学校時代に折り紙が得意だった私には有利なはず」
と密かにほくそえんでいた。
ルールは簡単。10人ずつのグループに別れ、スタートの合図と共に一斉に紙折開始、時間内に折った紙飛行機を飛ばして指定されたポイントに一番近く落下させたものが優勝だ。
競技がスタートすると、意外に難しいのか指定されたポイントどころか、ポイントを囲うサークルにも入らずにあっちこっちに飛んでいく紙飛行機がほとんどである。
いい年をした大人が真剣な顔で紙飛行機を飛ばすのを見ているのもなかなか面白い。
そうこうしているうちに、私の番が来た。
空き時間を利用して試作を重ねたデザインの機体をさっさと完成させ、いよいよフライトである。
フライト開始の笛を合図に一斉にテイクオフっ
愛機が私の手を離れ、ゆるやかな放物線を描いて指定ポイントへ!
と、距離がわずかに足りずにサークルの端へポトンと落下・・・
その横を同じ組で投じられた別の機体が指定ポイントのすぐそばに着陸したのであった。
残念だが完敗である。
それでもサークルの中に入っただけ良かったのだろう。
ほとんどの機体はサークル外へ飛んでいっているのだから。
無事に競技も終了、3位までの人にはそれぞれメダルが授与された。
あぁ、せっかくのチャンスだったのに。
金メダルとはいわずとも、銅メダルくらいを取っていれば末代まで自慢できたに違いない。
まあ私の運もこの程度だってことだ。
後日、国体のWebサイトに大会結果が公表された。
私の順位は139人中の16位だった。
なんと、17機しかサークルの中に入らなかったらしい。
そう考えると悪くない結果だったのかもしれない。
さて、会社の広報室に頼まれていたテイクオフの写真。
勇ましくペーパープレーンを投じる私の姿を見た担当者からは半笑いの表情を浮かべながらやんわりと掲載を断られたのだった。
(ライセンス第2委員会 Y.Shimogaki=)