ちょっと一言

突然の出会い

私が彼のことを初めて知ったのは、そう、この会誌広報委員会に入って、初めて行った6月の北海道。私は彼の名前も初めて聞いたのだが、噂によると、彼は、北海道でしかお目にかかれない、空港で待ち伏せするしかない、すぐにみんなに取られてしまう、一緒にビールを飲むと最高だという。老若男女問わずの大人気。こんな人気者、ほんとにこの世に存在するのだろうか!?

委員の中では、どうしても彼をゲットしたい!否、どうすれば、彼をゲットできるかの話で持ちきり。単純な私は影響を受け、「せっかく北海道まで来たんだから、そんな彼をひと目見たい、私もオイシイ思いをしてみたい!」と小樽の町で、彼の捜索を試みる。デパート、スーパー…。しかし、そんな簡単にお目にかかれるはずがない。皆、初めから彼を狙って計画を立て、そしてその中の一握りの人が、彼をめでたくゲットできるのだ。昨日今日、彼の存在を知った私なんかに、彼を射止めることは不可能に近いことなのだ。

しかし、一度話を聞いてしまったらおしまい。「何とか彼を手に入れたい!」私の気持ちもそんなふうに変わっていった。北海道に来るまでは、そんなことこれっぽっちも思っていなかったのに、女心とは怖いものだ。

その気持ちとは裏腹に、北海道を飛び立つ飛行機の時間が迫る。やはり、初心者の私には無理だったか。あきらめなくてはいけないか。今度はいつ北海道に来れるだろうか…。

そこにふと風の噂が。17時に彼が空港に来るかもしれないそうだ。これが私にとって最後のチャンス!飛行機を同じくする関西の二人の委員会女子メンバーとも思いは同じ。私たち3人は、彼の出現をほのめかす貼り紙を見つけ、柱の影から様子を伺う。彼が現れたらすぐに飛び出せる距離を保ちながら…。周りから見れば、たくさんのおみやげを抱え、怪しげな行動であるが、こんな時、関西人は強い。

しかし予定の時刻になっても、予定の時刻を過ぎても、彼が現れる雰囲気はまったくない。もしかして、ここに来る途中でもう他の人に先をこされてしまったか。

もう限界。残念だが、帰らないわけにはいかない。やはり、初心者が簡単に手に入れられるようなシロモノではなかったのだ。

「今度はもう少し彼のことを調査してから出直しだな…。いやいや、これでまた北海道に行く楽しみができた。ありがとう!北海道!」気持ちを切り替えて、私は機上の人に。

あれから早3ヶ月。私は京都の地に戻り、現実生活の中、彼のことなどすっかり忘れていた。京都では、彼の名前すら、話題には出てこないのである。

それが、である。ある日、私が出勤したら、席にかわいい袋が置いてあった。「何だろう?」と中を覗いてみると、チョコレート、夕張メロンゼリー…どうやら、北海道みやげのようである。まだ何かあるなと取り出したその手の先に、記憶から遠ざかっていた幻の彼の名前が!

「じゃがポックル」

朝礼前の思いがけない突然の出会いに、声をあげてしまいそうになりながら、私は心の中で叫んだ。「これが噂のじゃがポックル!」。

シンプルでのどかな包装の下半分が透明になっており、じゃがポックルの全貌が明らかとなった。フライドポテトのような外観である。その下には「北海道限定」という赤い文字が入っていた。まさかの京都での初対面に驚いた私の脳裏に、6月の記憶が蘇ってきた。「何とも言えないやめられない味…、ビールのおつまみに最高…」。その彼が今は私の手の中である。

「早く、食べたい!」

人間誰しもそう思うだろう。その欲求を押さえつつ、「一体誰が私におみやげを?」

まずは部署のメンバーを調査。違う。確かに、部署で北海道に行く予定の人はいなかったはずだ。
「隣の部署?」いやいや、隣の部署にも誰も同じおみやげの置いてある机はない。
「そうか。メモが入っているのか。」もう一度袋をひっくり返しても、手紙もポストイットさえも出てこない。

「メールに連絡が入っているかもしれない。」社内メールをチェックしても、北海道旅行の報告なんて1通も入っていない。
「一体、誰?」仕方がないので、机の引き出しにおみやげをしまい、連絡を待つ。

1日たった。

2日たった。

何も連絡がない。

「どういうこと???」

お昼前。お腹がすいてくる。

「食べたい…でも誰からもらったかわからないうちに食べるのはちょっと…。」引き出しを閉じる。

午後3時。小腹がすいてくる。「食べてもいいよねぇ?でももしかしておみやげのもらい間違いなんてことも…!」日が経つごとに、嫌な予感が増してくる。引き出しを閉じる。今日も我慢だ。

今日で、突然の出会いから3日。まだ贈り主は名乗り出てこない。幻の彼を手に入れ、こんな近くにその存在を感じながら、味わうことができないとは、思ってもみなかった展開である。賞味期限の12月14日までには、何とかしたいと願う毎日だ。

今日も、気の小さい私の引き出しにはじゃがポックルが何もなかったようにひそんでいる。

(K・M)

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