ちょっと一言
昔からの行事と旧暦
近頃われわれは季節感を失ってしまったといわれています。空調の効いたビルで働き、断熱性のあるマンションで寝起きすることで、四季の変化を感じずに暮らしているせいかもしれませんが、理由のひとつに「旧暦」をほとんど顧みなくなったことも関係しているといわれています。
旧暦とは、明治になり現在の暦(グレゴリオ暦:太陽暦)に改める迄使われていた暦(天保暦:太陰太陽暦)のことで、中国で古くから使われ東アジアに広まった農暦をもとにしたもので、気候風土に則したものでした。昔からある行事は、この旧暦で行われてきたものが数多くあります。
例えば、お正月。1月1日になると新しい年を迎えたとして「初春」や「迎春」の文字を飾ります。ところが新暦ではまだ真冬の真っ只中で春はまだまだです。旧暦の1月1日は新暦の1月下旬から2月上旬に当たり、春の気配が感じられまさに初春や迎春を祝うにふさわしいといえます。
次に、七草。1月7日には正月のおせち料理で疲れた胃を休め、また邪気を払い万病を除くとして、七草粥を食べます。ところが新暦では七草はまだ生えていません。旧暦の1月7日は新暦の2月初旬に当たり、春先の野山では若芽を伸ばし始めた七草を摘むことができます。
次に、ひな祭り。桃の節句ともいわれますが、3月3日に女の子の健やかな成長を祈る行事として行われています。ところが新暦ではまだ桃は咲いていません。旧暦の3月3日は新暦の3月下旬から4月中旬に当たり、のどかな春の日が続き桃の花が咲き始める頃となり、桃の節句にふさわしいといえます。
次に、端午の節句。5月5日に男の子の健やかな成長を祈る行事で、こいのぼりを立てます。鯉は、生命力が非常に強い魚で、その鯉が急流を上がり、更に滝を上がると竜になり、天へ上がるという中国の伝説にちなみ、子どもの立身出世を願い梅雨時期の雨の日に立てていました。しかし新暦では梅雨にはまだです。旧暦では新暦の5月下旬から6月中旬に当たり、まさに雨の中を鯉が滝上りしているのにふさわしい時候といえます。
次に、七夕。7月7日の夜に天の川に隔てられた織姫と彦星が、年に一度だけ天の川を渡って会うという中国の伝説にちなむ星祭の行事です。しかし新暦では梅雨の真っ最中で、雨雲に隠れることも多く会うことができません。旧暦では新暦の8月下旬の天気が安定した頃に当たり、また必ず上弦の月となることから、月が地平線に沈む時間が早く、天の川がきれいに見えお祭りを祝うことができます。
次に中秋の名月。8月15日に秋の澄んだ空に昇る満月を「中秋の名月」と呼んで鑑賞する風習で、秋の豊作を祈る行事でもあります。この中秋の名月だけは新暦で行わず旧暦で行っています。これは当たり前で、新暦の8月15日では月の形が満月にならないからです。ちなみに今年は9月25日でした。
我々は季節に即し様々な行事を行ってきましたが、このように現在では行事の季節と実際とが1ヶ月以上もずれが生じています。これは旧暦の行事をそのまま新暦の日に置き換えて行っているせいです。
本来の季節で行えば、桃の花は庭で咲いたものを飾ることができ、織姫と彦星もちゃんと会うことができます。日本に古くから伝わる行事はそれぞれ意味があり、時には旧暦で迎えてみることも良いかもしれません。
(A.H)