第2章 米国出願時における検討事項

  • 関連出願の有無を確認する。
  • クレーム及び実施例の記載が112条の要件を充足しているかを確認する。
  • クレーム毎の発明者を確認する。
  • 宣誓書/宣言書は明細書を正確に理解した上でサインする。
  • 優先権主張は、米国出願から4ヶ月以内もしくは基礎出願から16ヶ月以内にする。
  • 米国出願の方式(パリ条約に基づく通常の米国出願、仮出願、PCT出願)を選択する。

2.1 米国出願明細書 ( specification ) 作成の注意事項(ガイド参照

2.1.1 日本出願に基づき作成する場合

(1)日本出願以降の改良発明等の有無を確認し、改良発明がある場合には、米国明細書に記載するかどうかを検討する(同時期に、日本国内で国内優先を行うことが考えられる)。

(2)主語・述語を明瞭にする、英語的表現となる動詞を名詞化させる等、翻訳することを考慮した文章とする。

(3)関連米国出願の有無を確認し、関連出願がある場合にはお互いの関係を整理して矛盾が無いようにし、代理人にも連絡する。

(4)米国内公用の事実、製品販売、販売の申し出、論文発表等に関する情報を収集し、102条の各条項に該当しないかチェックする。

2.1.2 米国出願明細書を直接作成する場合

 米国において早期権利化を図る場合や、米国内で発生した発明を出願する場合等に行われている。米国内での発明の場合、輸出管理に関する法令(184条185条186条規則 5.11(e)(2))があるので、その発明内容を日本に開示する前に米国代理人にコンタクトし確認を求めることが望ましい。

2.1.3 記載要件

 クレームを含む明細書の記載要件が112条に規定されている(MPEP706.03(c),(d)参照)。これを満たすようクレーム及び明細書を作成しなければならない。

2.1.3.1 クレーム作成

(1)クレームは112条第2パラグラフ(発明の簡素な記載)に基づいて拒絶される頻度が多い。このため、文法、用語等を出願前に十分確認する必要がある。

(2)多重従属項 (mulitiple dependent claim)をさらに多重引用できない(マルチクレームのマルチは不可)。

(3)従属クレーム (dependent claim) はそれが従属するクレームの内容を定義するものであり、すべての限定要件を含むものとして解釈される。

(4)クレーム解釈は、移行部 (transition) として用いられる用語によって、open phraseとclosed phrase、middle phraseに分類され、クレームの権利範囲が異なる。移行部の選定は、先行技術との関係から最も権利範囲が広くなるように行うのが望ましい。

分類

定義

移行部として用いられる用語

Open phrase

クレームに記載されている構成要件以外のものを含めて解釈される。

comprising,including,containing等

Middle phrase

発明の基本及び新規性に影響を与えない部位においては限定されない。

essentially consisting of

Closed phrase

クレームに記載されている構成要件以外のものを含まないものとして解釈される。

consisting of,

containing only等

(5)数値限定

@数値限定を伴う必要がある場合は、「望ましくない物質が生成しない程度に十分低い温度で…」等の機能的表現で発明が不明確とならないよう定義する。

A○○以上や○○以下のように無制限の範囲(open-ended limitation)を定義している場合はその裏付けデータが書いてあることを確認する。

B「好ましい範囲」、「より好ましい範囲」のように段階的に導入する。

C小数点表示等においては、例えば60℃で良いところを60.0℃と記載した場合、極めて厳格に扱われる可能性があり、均等論の主張が困難となる場合もある。

2.1.3.2 明細書作成

 明細書の作成においては、記述要件、実施可能要件、ベストモード要件を満たす必要がある。これを満たさないと112条第1パラグラフにより拒絶される。

(1)記述要件 ( description requirement )

 記述要件は、実施例の開示において出願時にクレームされた主題を発明者が完全に把握していたことを保証することにあり、発明の主題を文書で明確に表現することにより達成される。特に、実験結果により開示要件を達成しようとする場合には、次の点に注意が必要となる。

(イ)実施例の条件はクレームの範囲内になっているか。

(ロ)実施例及び比較例は、発明の効果を十分示すものになっているか。

(ハ)実施例として比較例との数値的な差異が僅かな場合、その差異に産業上意味があることが記載されているか。

(2)実施可能要件 ( enablement requirement )

 実施可能要件として、該技術分野の熟練者が、発明を実施することができる程度に具体的に記述することが要求される。

(イ)明細書の開示に比較して、クレームが広すぎる場合は実施可能要件を満足しない。

(ロ)本要件を満たすには発明(クレーム)の具体的な内容が良く分かる実施例を示すことが最善である。

(ハ)実施例としては実際に実施していなくとも理論的に実施可能であれば予測的実施例(いわゆるpaper example)として、この要件は満たされる。この場合の記述は現在形で書く必要がある。過去形で書くとその実施例が実際に行われたことを示すことになる。後々、不公正行為の問題を生ずる可能性がある。

(ニ)実施可能性の判断については記述要件以外の外部資料を用いることも許される。この場合外部資料としては特許明細書(米国特許以外でも良い)が望ましい。

(3)ベストモード要件 ( best mode requirement )

(イ)ベストモード要件は、好ましい実施例の態様を秘匿したまま特許出願することを阻止することを目的としている。出願時発明者の善意で(in good faith)、かつ主観的な判断に基づいて提出すれば良い。

(ロ)審査段階で問題にされることは少ないが、特許訴訟においてはベストモード要件の不備による特許無効の議論が頻繁におこるため十分なチェックが必要。

(ハ)ベストモード開示の基準日は出願日であり、米国出願時に本要件を充足することが要求される。

2.2 図面 ( drawing ) について

(1)図面の提出は義務付けられておらず、発明の理解に不可欠なときに提出するよう要求される(規則1.81)。

(2)図面が必要であるにも関わらず誤って図面無しで出願された場合、その出願は不受理処分を受け、図面提出日が出願日となるため注意が必要である。

(3)カラー図面の使用は、発明を開示するに必要ある理由を説明する請願(petition)の提出が要求される(請願料、3枚セットのカラー図面、明細書の補正(明細書においてカラー図面を含むことを宣言する))。

(4)写真の提出は原則的に不可であるが、請願(petition)によって提出可能(規則1.84(b))。

2.3 模型、証拠、見本の提出について

 特許を受けようとする物・方法が特別の物質、装置あるいは方法に依らなければ入手、生産できないような場合においては、特許付与時までにその物質等を入手できる手段を与えなければならない(White事件 Fed.Cir.1993, Ghiron事件 C.C.P.A. 1971)。例えば、微生物に関する発明の場合、該微生物の寄託が必要となる場合がある。

2.4 発明者の要件 ( inventorship )

(1)米国では原則的に発明者のみが特許出願できる。

(2)クレーム毎の発明者を明確にしておき、出願後の補正等でクレームが削除された場合に発明者の訂正を容易に行えるようにしておくべきである。

(3)やむを得ない事情により発明者による出願ができないときには、所定の手続を経て、法定代理人や他の発明者により出願することができる(規則1.42,1.45,1.46 ,1.47 参照)。

(注)特許発行迄に、発明者の氏名の誤記や姓名の変更に関する正しい情報を出願 データシート(ADS)として提出することが望まれる(規則 1.76)。

2.5 宣誓書(oath)/宣言書(declaration)

(1)宣誓書/宣言書は、発明者が「明細書の内容を理解したこと真正な発明者(共同発明者)であると認識していること及びIDS義務があることを理解したこと」を宣言するものであり、偽りがあってはならない(規則1.63)。

(2)宣誓書/宣言書が英文である必要はなく、日本語であってもよい。ただし、USPTOに求められた書式でなければ、認証付き英訳が要求される(規則1.69(b))。

(3)発明者は、英文明細書を正確に理解した後で、宣誓書/宣言書にサインすることを要求される。出願後に、宣誓書/宣言書を補完し提出することもできる。

2.6 優先権主張 ( priority )

(1)優先権主張の期限

@実際の米国出願日から4ヶ月以内若しくは基礎出願から16ヶ月以内。

Aこの期間を過ぎた後は原則的に優先権の放棄と見なされる。

(2)期限経過後の優先権主張

@優先権主張の遅延が意図的ではないことを説明する嘆願書(petition)を提出して許可を受ける必要あり。

(3)審査官による優先権主張要請

以下の場合には、上記期日より前に優先権主張及び認証謄本の提出が必要となる。

@その出願がインターフェアレンス(抵触審査)に係る場合

A引例の日付を克服する必要がある場合

Bその他審査官から特別に要求された場合

2.7 仮出願 ( provisional application )

(1)出願費用が安く、手続も簡素であり(クレームや宣誓書が不要/日本語出願可)、通常の米国出願( nonprovisional application )の優先権主張の基礎とすることで特許期間を実質的に延長できる等の利点がある。

(2)審査されるためには通常の米国出願への変更手続が1年以内に必要である。または、仮出願から1年以内に行なった通常出願の係属中かつその出願日から4ヶ月以内もしくは仮出願の日から16ヶ月以内に優先権主張を行なう。

 

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